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食事

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(まるで情熱的なラブシーンだ)

武羅渡の食事風景は毎度毎度とても官能的であると月村は思う。
本日のメインディッシュは17歳。お嬢様然としたワンピースに身を包み、すらりと伸びた手足は細すぎず太すぎず。
魅力的なその肢体が横たわるベッドの上で、武羅渡は彼女の首筋に一つ口付けを落とし、直後、自身の鋭く尖る真白な歯でその皮膚をざっくりと切り裂いた。
彼女は閉じたままの瞼をひくりと痙攣させるだけで何の抵抗も示さない。彼女は今、甘やかな夢の中にいる。
ごくり、ごくりと武羅渡の喉がゆっくりと上下する。傷口から時折溢れる血を武羅渡は舌で器用に舐め取る。愛撫のように、一滴も無駄にはしないように。
どんどんと青ざめ白くなってゆく女の顔は恍惚感に満ち、ともすればエロティックという表現すらも可能な程に妖しい美しさを放つ。
繊細なレースの重なる純白のシーツを掻くように、彼女の指先がぴくりと動き、生命としての絶頂を迎える。
最期に痙攣するように身体全体を軽く反らして、彼女が――止まった。

武羅渡は額に掛かった彼女の髪を軽く直すと、月明かりを背中に受けて静かに此方に向き直る。
呼吸音すら憚られる、そんな静寂を武羅渡は簡単に破り「貴方の番ですよ」と紅を引いたような赤い唇をゆっくり動かす。
俺は一度だけ頷いて、武羅渡と入れ違いに女の横たわるベッドに近づいた。

時計は11時37分を指していた。




(ああ、妬けますね)

何度も何度も口付けをするように、がぶりがぶりと月村さんはその身体を貪った。
鈍く光る犬歯と驚異的な顎の力で獲物を噛み切り、咀嚼し、飲み込む。
つい先程まで美しい”したい”であった彼女も、今は見る影も無い。あの魅力的な腕も長い足も白い腹も柔らかい胸も、ただただ食されるのを待つ肉という、それだけの価値しか無くなってしまった。
直接的にいえば、グロテスク。
それでも、武羅渡はその肉塊に羨ましさにも似た嫉妬を覚えている。
鋭い爪に貫かれる掌、尖った牙に切り裂かれる柔らかい贓物。他には何も見えないくらい、月村さんに執着され、愛されているあの肉が妬ましい。
何故あれがわたしではないんですか。何故わたしを裂いてくれないんですか。何故わたしを噛んでくれないんですか。何故わたしを食べてくれないんですか。何故わたしとひとつになってくれないんですか。

――そんな願いは叶わないことは、嫌というほど知っている。

わたしがそれを望んでも、万が一彼もそれを望んでも、わたしは死んだら灰になる。
細かく散って、さらさらと風に流されるまま彼の知らない遠くへ消える。

肉片を飛ばし、グロテスクな塊を雑に食い散らす彼の後ろ姿を恍惚と眺める。

ああ、彼はなんて美しい。

0時を告げる深い鐘の音の鳴る最中、わたしは彼女の血が混じり合う己の身体を緩く抱いた。
作品名:食事 作家名:桐風千代子