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twinkle&twinkle

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――なあ、こんな嬉しいことって他にあると思うか?


 都会の夜空には星の光は届かない。
 眩い地上のライトの勢いに負けて、地上までその光を降り注いでくれないからだ。
 けれど、その日の空に静雄は星を見たような気がした。子供の頃、宿泊学習で出かけた遠くの山奥の施設のベランダから眺めたあの輝きが、今の静雄の眼差しの先の夜空に瞬いていた。
「なんてーか、綺麗な空ですよねぇ」
 自宅アパートの窓を開放して、苺味の酎ハイ缶を片手に静雄はうっとりと呟いた。
「そうか?」
 静雄の後からにゅっと伸びてきた手が静雄の背に触れ、「どれどれ?」とドレッドヘアの青年が狭い窓から共に窓の外を見上げた。
「綺麗なのはどっちかっていうと夜景のほうじゃね?」
「いいえ、星が綺麗っす」
「見えないぞ?」
「俺には見えるんす」
 妙に上機嫌な静雄は嬉しそうに目を細めた。そして、窓によりかかるようにして座り直すと、酔って少し浮かれた気分で相手に答える。
「池袋の空は黒板みたいな色ですけど、でもちょっと曇ってるだけでその上に星はちゃんと輝いてるんです」
「ん、まあそうだな」
 相手は――田中トムは静雄が酔っていると思ったのだろう、優しい顔をしてその戯言に頷いてくれた。
「それ教えてくれたの……誰だか覚えてます?」
「誰だったかなぁ~」
 目を細めたトムは、缶ビールを一気に仰ぐ。そして軽く唇を尖らせている後輩を見つめ返した。
「よくもまあ、そんな昔のこと覚えてるもんだ」
「忘れるわけありませんよ」
 真剣な表情で言い返してから、静雄は妙に緩い顔で笑った。
「それに……今、俺にはほんとに星空が見えるんす。……嬉しい時にはいつも、空の上に星があるって思うだけで、キラキラ輝いてるって思えて、すげぇいい気分になるんです」
「嬉しい? 何かいいことあったか?」
「いっぱいありますよ」
 すぐそうやって照れて誤魔化す。
 静雄はちょっとだけじれったい気分になった。しかしあまり言い続けたら、きっとしつこいと思われるかもしれない。
 だから我慢して、部屋の中に飾ってあるカレンダーを見つめた。
 今日の日付には赤いマジックで丸をつけてある。トムはこの日を忘れてたりしていなかった。朝、それを確認できただけで、静雄はとても嬉しくて一日浮かれていたのだ。
 交際一年目の記念日。
 こんなことを女々しく覚えてるなんて、馬鹿にされるかも、なんて心配していた。
 だからもし忘れていてもいいように、特別な用意などはしないようにした。
 何かあるかもなんて期待もしないようにしていた。
 だけど。
 事務所を出て二人きりになった時、トムは照れくさそうな顔をして話しかけてきた。

 ――今日、一緒に飲みに行かねぇか?
 ――え、勿論いいっすけど。給料日前ですよ。
 ――そうだな。じゃあ俺の家か、お前ん家で。
 ――何かあるんすか?
 ――ばーか。記念日だろーが。俺たちの。

「えへへへへへ……」
「まったく……困ったな」
 トムは窓を閉めて、静雄の隣に同じように背をもたれて腰かけなおすと、彼の肩に両手を乗せた。
「静雄……星とかじゃなくてさ」
「あ、はい?」
 相手が何かを言わんとしていることに気付き、静雄は姿勢をただした。
 肩に置かれた手が、首の後ろにまわり、頭を優しく包むように抱きしめられる。
 そして甘い言葉が耳に響いた。
「どうせなら俺を見てろっての」
「……!!」
 全身がびくりと反応してしまう。体が一気に火照って、うまい返事がすぐに出てこない。
 だから恐る恐るそのトムの背中に静雄も手を回して、「う、うす」と小さな声で返した。
「ん」
 満足げな上司の声。彼の腕の力が緩んだので、静雄は彼を見上げる。
 見上げた途端に唇を塞がれた。
「……ぁ……っ」
「ん……」
 ちょっとだけ苦いビールの味が、トムの唇から――舌から伝わる。
 嫌じゃない。トムとのキスはいつも大人の味だから。
 深く舌を絡ませあいながら、彼の腕は静雄の体を畳の上にゆっくりと押し倒していた。シャツのボタンを外されてゆく指を感じて、静雄も舌を絡めあいながら彼のシャツのボタンを夢中で外した。
「静雄……静雄……」
 舌を絡ませあいながら、切なく名前を呼ばれると、涙が出そうなくらい嬉しくて。
「……トムさん……トムさん」
 呼び返すと、幸福で胸がいっぱいになる。
 長い長いキスのあと、トムは静雄の額に唇を寄せながら、ゆっくり囁いた。
「静雄……俺今かなり酔ってるのかな。メチャクチャ……お前が欲しい」
「トムさん……」
 その響きの甘さに酔いながら、静雄もトムの頬に唇を寄せた。
「俺も……っす。いっぱいトムさんが欲しい」
 そう囁いて瞼を伏せると、トムはまたたくさんのキスを降らせてくれた。










 ねぇ、知ってますか。トムさん。

 東京の都会の真ん中の池袋だって、夜中を過ぎれば星がキラキラ光るんすよ。
 そのことを俺、トムさんと初めて愛しあった夜に気づいたんです。

 二人で抱き合って眠って、ふと目が覚めた時、空けた窓の外に光ってた本物の星は
 そりゃもう綺麗で……。忘れられない。

 

 ――今夜一緒に見られたら、いいですよね。


                                おわり。
作品名:twinkle&twinkle 作家名:あいたろ