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その後日常 ※ネタバレ注意

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彼の部屋の窓はいつも小さく開けてある。それはもちろん私が入るためのトビラ代わりにだ。今日も私はいつも通りに体を滑らせてそのトビラに入っていった。今日は休日なのにその部屋の主はソファーに座って何やらテレビを見ている。
床に軽く着地して小さく鳴く。するとその男はコチラを振り向く。私の鳴き声がどんなに小さくても男はそれを聞き逃すことはないのだ。その点はへっどほんを付けると私や小動物クンの声を全く聞かなくなってしまう小さな主人とは大きな違いである。

「お、来たのか」

その声にまた私は小さく返事をしてソファーの彼の隣に座った。彼、ヨミエルは微笑むと私の頭を少し強く撫でる。
今、私の主人の家には誰もいない。私の小さな主人はリンネ達と出かけてしまったし、ジョード警部は今頃新たな事件現場を白くてラブリーな相棒と駆け回っている。留守番お願いね、と頼まれたものの私はさっさと抜け出してきてしまった。彼らが帰る前に私も家にいればバレることもないだろう。もしかしたらヨミエルを経由してジョード警部にバレてしまうという可能性もあるが…その時はその時だ。

「ほら、ちょうど今映画やってるぞ」

今この部屋にはヨミエルしかいなかった。私と同じ名前の優しい男の恋人も今は外出中らしい。テレビを見るとそこには派手に拳銃を撃ちあう男たちの映画が流れていた。思えばこの男は十年前からこういう映画が好きだった。私はよく側で一緒にそれを見ていたのを思い出す。尤も今の主人もこういった映画は好きらしく、他の家族の寝静まった夜中、たまにジョード警部は私と共に映画を見るのだ。

「今ちょうどシセルが買い物に行ってて暇だったんだよ、帰ってくるまで見ようぜ」

この場合のシセルはもちろん彼の恋人の方である。実はこの男、十年間色々あったせいで今現在恋人にはめっぽう甘い。私が彼と共に暮らしていたころにはめったに見せなかった表情をよく彼女にはよく見せる。私はそれを見るたびにどこか安心してしまうのだ。
ぽんと軽い音が聞こえてテレビからヨミエルの方へ視線を向けると、彼は自分の膝を叩いていた。私はそれを見て少し悩んだがすぐに立ちあがって彼の膝の上に収まった。固い。どうせ座るならやはり柔らかい方が座りやすい。リンネやカノン嬢のような。

「何だよ、俺の膝じゃ不満か」

もう会話はできなくなってしまったはずなのに、なぜかこの男はよく私の思考を簡単に読んでくる。それがしばらく同じ体で同居したせいなのか、十年間の付き合いのせいなのかはわからない。
こうしていると失われた過去のことを思い出す。私は昔も今も彼の膝で丸くなると幸せな気分になれた。しかしヨミエルの表情は全く違うのだ。私はそれを改めて感じるとまた少し幸せになる。今、彼が私の背を撫でる手は暖かいのだ。

「昼飯食べたら三人で散歩にでも行くか?」

今日の日差しは暖かい。私はすぐにそれににゃあと鳴くことで答えた。