苺のショートケーキ
応接室の、執務机に置かれたのはさほど大きくない紙製の箱だった。彼の持ってくるものだったから爆発物かなにか、そういう危険なものだろうと思ったけれど、そういうわけではないようだ。彼の言い振りからすると、食べ物だろうから。
「…ケーキ?」
警戒は解かないまでも見てやろうと箱を開ければ、白いクリームの上に苺が乗った、いわゆるショートケーキがその中には入っていた。
「姉貴の作ったもんじゃねぇから、食えるはずだぜ」
封をしていたシールは、確かに商店街の洋菓子屋のものだ。客の入りも悪くはないし、良くない噂を聞くこともない、そんな店だったと記憶しているけれど。
「なんで、それを僕に?」
「……さぁな。意味なんかねぇよ」
じゃあな、と言い捨てて彼は扉から出て行った。その表情は隠し事をしているようにも見えたけれど、内容を推察することは出来なかった。心当たりもないのだから。
「紅茶を入れるくらいの気を利かせる頭はないみたいだね」
フォークも用意されていないけれど取りに行くつもりにはならなかった。扉の前で様子を伺っている奴もいることだし。
苺を摘んで、付着しているクリームを舐め取る。
「……甘い」
まるで彼のようだと、笑みが浮かんだ。