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葛原ほずみ
葛原ほずみ
novelistID. 10543
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素直にジェラシー(サンプル)

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 試食会が一段落ついたところで、伊月は片付けもそこそこに、日向の様子を見てくるといって調理室を離れた。
 廊下で倒れた後保健室に運び、とりあえず養護教諭に預けてきたが、彼は大丈夫だろうか。
「失礼しまーす……あれ」
 養護教諭は席を外しているらしく無人だった。日向が寝ているはずのベッドを仕切るカーテンをめくり、覗き込む。
「日向、大丈夫か?」
 眉間に皺を寄せていた日向が、伊月の声でこちらを見た。弱りきった様子で彼らしくない笑みを向ける。
「ああ、どーにか……」
 伊月はベッドの横に置かれた回転椅子に腰掛けた。開いた脚の間に手をついて座面を掴み、左右に軽く回しながら言う。
「あの味の原因わかったぞ」
「なに」
「野菜とかいろいろ火が通ってなかっただけじゃなくてさ」
 そう前置きをして、さきほど判明した驚愕の事実を話して聞かせた。
「あーそっか、それであのなんとも言えない味……」
 はー、と弱々しく息を吐いて日向が腹をさすりながら目を閉じる。伊月は苦笑を浮かべた。
「最初から明らかに尋常じゃない味してただろ。そんなの入ってるのに無理するから」
 カントクには申し訳ないが、口に入れて飲み込むのすらも正直苦痛だった。それなのにあんな無茶に掻き込んだりして。
 咎めるように言った伊月に、日向は少し眉を上げて伊月の方を見た。
「なんだよ、ヤキモチか?」
 そうとられるかな、とは思っていたので、伊月は笑みを浮かべたまま首を横に振った。
 確かに自分がいろんな場面で勝手にカントクや木吉に嫉妬して一人でぐるぐるしていることが多いのは認める。けれど今回はそれよりも何よりも。
「違うよ、日向やっぱかっこいいって惚れ直した」
 普段あまりストレートにそういうことを言わないのでそうこられるとは思っていなかったのだろう、日向は少し面食らったような顔をした。
「なんだそれ」
「カントクの努力わかっててもオレにはああは出来なかったからさ」
 伊月が座面を掴む自分の手を見ながら素直に褒めると、日向が手を伸ばして二の腕を掴んできて、落ち着きのない回転を止めさせた。顔をあげたら、思いのほか真面目な顔をした日向がまっすぐに自分を見ている。
「別にあれがカントクのじゃなくても同じようにしたぞ、オレは」
 ――心配、してくれてんのかな。
 そう思うと少し嬉しく、伊月は口の端をあげて自分の腕を掴む日向の手を逆の手で軽く叩いた。
「わかってるよ。別に嫉妬とかそういうのないってさっき言っただろ」
「ちぇー」
 日向が手を離し、頭の後ろに腕を組んで唇を尖らせた。
「なんだよ」
 嫉妬してるわけじゃないのに何の文句があるんだ、と不満げな彼の顔を覗き込むように身を乗り出すと、ぷい、と子供のように顔を背けて面白くなさそうな声で言う。
「ヤキモチやかれたりするの、ちょっと好きなのに」
 ――は……?
「なんだよそれ」
 呆れ顔で聞き返すと、日向はこちらを見ないまま続けた。