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awkwardly

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「そういえば、臨也が刺されたってのは知ってる?」

何気なく口に出してから、しまった、と新羅は激しく後悔した。この場で出すには最もふさわしくない話題だった。
新羅は、今にも彼の持つコーヒーカップが粉々になることを覚悟したのだが―――

「……臨也が?」

案に相違して、静雄はただ目を丸くしただけだった。

―――あれ。やけに大人しい反応。

自らの失言に速まる心臓を落ち着けようと、新羅は愛用のマグカップからコーヒーを一口飲む。どちらにせよ、こんな危険な話はこれ以上続けたくなかったのだが、自分から言い始めたことなので新羅は仕方なく会話を再開した。

「うん、何か、東北の方で誰かに刺されて、そのまま向こうの病院に運ばれたみたい。僕も詳しいことは―――」
「いつ?」
静雄は飲もうとしていたカップを空中で中途半端に停止させたまま、短く尋ねる。
「うーん、二週間ぐらい前かな?」
「意識は?」
「はぁ?」
「だから、意識はあるのかって。……ちっ、道理で最近、静かだと思った」
「いや、刺された次の日にぴんぴんして僕にイタ電掛けてきたけど?」
「…………」
「…………」
ソファーで向かい合う彼らに沈黙が落ちる。


ここは、川越街道某所のマンション、そのとある一室。
セルティが外出中で暇を持て余していた新羅の元に、仕事の空き時間ができたという静雄がふらっと訪ねてきたのである。二人はのんびりと午後のお茶を楽しみながら、取り留めもない会話を交わしていたのだが………
ここに至って、幾分イレギュラーな事態を迎えている。

―――まぁ、臨也がノコノコ病院送りになるなんて滅多にないことだし、自分が馬鹿みたいに頑丈すぎる分、他の人間が身体的に脆く感じられるだけなのかもしれないけど。

やっぱりなぁ、と新羅は思う。

「ねぇ、静雄。臨也のこと、心配しちゃったんでしょ?」
「……違ぇよ」

ようやくカップを口元に持っていく静雄の様子は、的外れなことを尋ねた恥ずかしさが半分、臨也の話題が続いていることによる不機嫌さが半分といったところだった。
だが、彼の長年の友人である新羅は、その中に確かな動揺の色を読み取る。

「いい加減に認めなって。仲直りしたいんでしょ?」
「うるせぇ、黙れ」
「静雄がそんなだから、臨也だって、見知らぬ土地で怪我してひとりぼっちで寂しくても、君に電話の一本さえ掛けられないんだよ?」
「………」
「まったく、二人とも高校時代から全然成長しないんだから。君たちの間で板挟みになってる門田と僕の気持ちも―――」
「うるせぇっつってんだろうが!!!」

ガンッと乱暴にカップをテーブルへ置くと、静雄は勢いよくソファーから立ち上がり、重々しく足音を響かせて部屋から出て行く。

「ちょっと、静雄! 帰るの!?」
「帰る。邪魔したな」
「あ、玄関のドア壊さないでよ!」
壁の向こう側へ大声で呼びかけ、ドアがバタンと閉まる音を確認すると、新羅ははぁっと溜め息を吐いた。相変わらずの静雄の短気にも困ったものだと呆れながら。

新羅は妙な気疲れを感じ、ソファーに沈み込んで辺りをぼんやりと見回した。一人になった部屋はやけに静かに感じられる。あいつも本当に名前負けした奴だ、と新羅は騒々しい同級生のことを改めて評した。

―――そういえば、臨也の奴、今どこにいるんだろう。

友人らしからぬ淡白さで、新羅は刺されたという臨也のことをつらつらと考える。

―――あいつがいつまでも病室のベッドに収まってるとも思えないし。まぁ、とっくに脱走でもしてるかな……
―――何にせよ、今のあの様子じゃ、まだ静雄に会いに行ってないのは確実だな。静雄も臨也が心配なら、素直にそう言えばいいのに、まったくもう……

もう一度勢いよく溜め息を吐いた後、新羅は片付けをしようと立ち上がり、テーブルの上へ手を伸ばした。
貰い物のクッキーが載った小皿、セルティとお揃いの愛用のマグカップ、来客用のコーヒーカップ。

―――…………。

新羅はその何でもない光景を目にして―――先程のものとは違った、柔らかな溜め息を漏らす。

―――本当に、素直じゃないんだから。

珍しく取っ手が付いたまま残されたコーヒーカップを持ち上げ、新羅は微笑んだ。
作品名:awkwardly 作家名:あずき