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てのひらに、彼をのせて

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梅雨も明けしなの、暑さで寝苦しくなってきた朝である。タオルケットはすでに足下に蹴り寄せられてしまっているというのに、からだがなにかひどく熱いもので覆われている。窓は開いているはずだが、早朝の涼しい風を取り込むまでには至っていないようだった。
 Tシャツの腹をめくりあげようとして失敗する。てのひらは自分の体ではないなにかの皮膚に触れて、ようやく夜神はのろのろと目を開けた。視線を落とすと、胸のあたりに黒いかたまりがごそごそと動いている。おい、と声をかけると、黒いかたまりが動いて夜神に視線を合わせた。ギョロリとのぞく魚のような眼球。重い。そう一言告げて自分の胸にのった頭をのけようとすると、私わりと軽量の方なんですけどと返ってきた。120gの薄型タッチパネル式のハイスペック携帯だ。先月、家庭教師のバイト代で手に入れた。
 重いもんは重い。言って、夜神は今度こそそれをシーツの上に突き落とした。もぞもぞとからだを動かして、汗の吸ったシーツの、まだ体温でぬくもっていない部分に移動する。カーテンがそよそよと揺れて、朝の青い光が頬を射した。すると、今度は背中にべったりと貼り付いてくる。暑い!そう叫ぶと、しょうがないです夜神君、そうして額を背中にすりつけた。……あと、おなかが空いたんでケーキが食べたいです。
 充電したばっかだろ。昨日の夜、遅くまで私をいじくりまわしてたくせに。変な言い方するな。他にどんな言い方がありますか?とりあえずおなか空いたんでケーキお願いしますケーキケーキケーキ!
 今度は夜神の腹に手を回してゆさゆさとからだを揺らせてくる。この携帯に不満があるといえばこういうところだ。とにかく電池の持ちが悪い。すぐにこうして充電しろと言ってくる。夜神は重いため息をついて背中に貼り付いた黒い頭をわしづかんだ。そのまま力任せにからだから引き剥がす。判った、判ったから。サイドボードの時計を確認する。もうすっかり陽が昇るのが早くなってしまった。まだ6時にもなっていない。判ったからもう少し寝させろ。
 途端、軽量とは思えない重量がのしかかってくる。腹を押されて喉から変な音が漏れた。早くしてくれないと、夜神くんが無精ひげ生やして口開けて寝てる顔の写真ををえりこさんとみちるさんとみほさんとゆりこさんとかなえさんとちなつさんにメールで送信しますけどいいですか。
 もう一度サイドボードの時計を確認する。6時前である。窓の外から雀のさえずる声が聞こえて、夜神はもう一度重たいため息をついた。