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【新刊サンプル】マリーゴールドとチェリーブロッサム

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こうやって体を重ねる時、彼はたくさんのキスをくれる。

 唇に、腕に、指に、胸に、腹に、あまり人には言えないところに。そして最後に私のうなじのあたりにキスをする。うっすらと残るその跡はシャツでちょうど隠れるか見えるかという位置に。

 彼は丁寧に私に触れて、愛してくれる。この跡は彼が付ける所有印。
 それを彼が申し訳なく思っていることも知っている。けれど実際のところそんな彼の独占欲は決して不快ではない。

 何より、私も同じように彼に印をつけているのだから――。






 どんよりとした雨の日が続いていた。テレビをつけてみるとどうもしばらく天気は良くないらしい。今年も桜が咲くのは遅いのだろうかと紀田正臣は思った。
 雨のさーさーという単調な音と耳に入るテレビの声。昼過ぎだというのに暗い空。
「なんか腐りそうだ」
 そう呟くとくすくすという笑い声が聞こえた。
「雨降ってるから?」
「ずっとこの天気だと脳みそにカビが生えてもおかしくないんじゃないかって思わねえ?」
 どうかな、と真面目に考え始める彼女――三ヶ島沙樹を横目で見やる。綺麗に揃えられた黒髪と透けるような白い肌。ピンク色の唇が動く。
「正臣はどうでもいいことを気にするね」
「どうでもいいって……まあ事実どうでもいいわな」
 降り続く雨は気分を重くする。
 その重みを降りはらうように正臣は沙樹の髪に触れる。
「さーきさんっ」
「何……ってくすぐったいよ」
 彼が揺らす髪が沙樹自身の頬をくすぐる。瞳に自分の姿が映っているのがわかるほど近い距離。自然と腕は彼女に伸びる。