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ひゅうと吹いた冷たい風の音が、寒さで赤くなってしまった耳をかすめる。
それはとても穏やかな筈なのに、今の彼には硝子の破片が刺さるかの様な気分だった。

辺りはもう真っ暗で、通りに植えられている木々のイルミネーションが眩しい時間となった。
しかしそんな時間にもかかわらず、駅に続いている大通りは人が絶えない。
とは言え、あの時ほどの人込みではないなと、骸はポケットに手を入れる。

再び耳をかすめる風の音に、小さな溜め息を漏らして苦笑する。

「やはり、厚手のコートを着て来るべきでしたかね……いくら僕でも、流石に寒い……」

自分は相当馬鹿だなと、再び街路樹に目を向ける。

キラキラと輝くイルミネーション。
それはさながら魔法の様で、最近の鮮明な記憶が瞼の裏に現れる。

(あの時の君はイルミネーションを見ながら、それは嬉しそうに『綺麗だね!』と言いっていましたね……)

しかし今はどうなのだろうか。
先日の様な気持ちで、このイルミネーションを見ている筈がなかった。

視線を地面へと落として、駅への道を歩いていく。

「…綱吉君……」

不意にぽつりと、彼の名を呟いた。
無意識だったが、そうなった理由は明確だった。

今にも振り返って、家に帰りたい。
この事実を認めたくない。

綱吉から今日の事を聞かされたのが、ちょうど一週間前の同じ様な時間だった。
いつものように、ファミレスで夕食をとりながら、骸は綱吉に勉強を教えていた。

いつもよりどこか暗い彼に、大丈夫かと聞くと、綱吉は恐る恐る口を開いて、受け入れ難い現実を話し出したのだった。

『俺、来週の今日、骸と……さよなら、しなくちゃならないんだ』

あの時の事は、良く覚えていない。
ただ、さよならという単語が、骸の中の何かに傷をつけた。

(もう早いもので一週間……)

それからは一度も連絡をとらなかった。
何かが恐ろしくて、骸から連絡を入れる気にはなれなかったし、綱吉から骸に連絡が来ることもなかった。

早いとは言え、綱吉と接点のなかった一週間は、今までの一週間よりも一日一日が遥かに長かった。
しかし早く過ぎてしまったと、そう思えるのは、彼へ何も出来ないままに過ぎてしまった為に、彼と過ごした記憶が、最後に接した一週間前のものが鮮明に残っているというだけの事である。
そのかわり、一日を見れば、今までいたはずの綱吉が、それこそ穴に落ちたかのように消えてしまったからだった。
そうして骸も、その穴を埋める術を持たなかった。

……いわば後悔の結果だった。

「……はあ。少し早く着いた様ですね」

予め決めていた場所に目を向けるが、綱吉の姿はまだなかった。
待ち合わせは、いつも駅前の時計の下だった。
そういえば、最初にここで待ち合わせた時は、二人で柱を挟んで反対に立っていて、中々気がつかなかったなんてこともあった。

「さて、彼には何と言ってやれば良いのでしょうか……」

ありがとう……?
いいや、さようなら?

そんな簡単な言葉で良いのだろうか。
どのみち一言では、到底伝えきれはしない。

「考えては、いたんですがね……」

柱に寄り掛かり、下を向いて溜め息。
白い息がふわっと広がって、すぐに消える。
それはいかにも、今からの自分達を映しているかのように、酷く悲しい事のように見えた。
小さくどうでもいい、ごく自然に起こる現象も、綱吉と骸の間にある出来事も、この世界にとっては、誰も気に留めることのないただの時間の流れの一片。
そう思うと、世界がとても憎らしく思えた。
いっそ、自分達が世界という時間の中心にいられたら、もしかしたら現実を変えることも出来たかもしれないという、無意味な考えが頭をよぎる。

彼との別れの言葉など、考えなくて良かったかもしれないと思ってしまう。

骸はズボンのポケットから、一つのネックレスを取り出して、手の平に乗せた。
一週間前のあの日、帰り際にでも渡そうと思っていたものだった。
小さなリングが通されているそれは、街灯の光を拾って淡く輝く。
そうして同じ様に、自分の首にも淡く輝くリングが揺れていた。

初めて会った日、綱吉が骸に言った最初の言葉は、よろしくでも、自分の名前でもなく『そのネックレス、すごく似合ってますね』だった。
何の嫌味だと思った骸だったが、少し話すうちに、純粋にそう思ってくれていたことが分かった。
決定的な証拠はないにしろ、少なくとも嫌味を言うような人ではないと思った。
そうして『俺もそういうのが似合う人なら良かったんですけど……えへへ…。』と、照れたように笑っていたのを思い出した。
綱吉と仲良くなってから暫く、そんなことを唐突に思い出した骸は、自分のそれと同じものを買いに行った。

しかし、今の今まで、渡せなかったのだ。
どうして渡せなかったのか。そんなことは分からない。
ただ骸は、彼の笑顔さえあれば、それで良かったのかもしれない。
今になっても、あまりに鮮明なその記憶に、骸は何か奪い取られるような気持ちだった。

視界に入った白い浮遊物に顔を上げると、白い雪が、ふわふわと降り出した様だった。

「雪だなんて……。全く、寒いじゃないですか……。」

約束の時間には、まだならない。

「綱吉君は、大丈夫なんでしょうか……。」

ネックレスをポケットにしまい、空いた手をすっと空に向けると、雪が乗った。
それは当たり前の様に、触れると溶けて水滴となって残る。
その手をぎゅっと握って、ゆっくりと息を吐く。

視線を大通りに向けると、向こう側から歩いて来る少年が目に入った。
作品名: 作家名:ゆず