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きらきらキャンディーあげる

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「どうしたの?」

急に上から声が降ってきて、びっくりして顔を上げた。

「泣いてるの?大丈夫?」

声と共に伸ばされた手が、頬に触れる。ひやりとしたそれは、泣いて火照った肌に心地いい。指は白くて細くて、とてもきれいだった。だから。

ぱしん。

今度はその声の主が驚いたような感じがした。俺は相変わらず顔を俯かせていたから、その人の顔は分からない。けれど、声が高いしなによりさっき手が触れた感覚から、たぶん女の人だろうなと思った。
だったら、余計にダメだ。

「さわんな」
「、え」
「別に泣いてない。あっちいけ」

嘘だ。ほんとは泣いていた。でも、知られたくない。
こうやって冷たくすれば、みんな俺から離れていくから。
そしたらもう、誰も傷つけなくていい。独りが一番楽なんだ。

そう思ってるのに、女の人は動く気配がない。
なんだよ。はやくどっか行けよ。

「あっち行けよ」
「だって、君、」
「うるさいな!はやくどっか行けっ!行けよ!」

思いっきり怒鳴りつけた。
それなのに、まだ女の人は動かない。
それどころか手を伸ばして、俺の頭を撫でてきた。その手は冷たいのに暖かくて優しくて、俺はまた泣きそうになった。

「うそは駄目だよ」
「うるさい」
「うそつきは泥棒のはじまりって、習わなかった?」
「うるさい!」

俺はそこで初めて顔を上げた。
やっぱり女の人だった。青い、たぶん制服を着てる。その人は前髪が短くて、目が大きかった。
俺の顔を見て、大きな目が細くなった。笑った。

「そんな嘘、吐いちゃ駄目だよ。僕も悲しくなるから」

触れてくる手を、もう拒めなかった。


「やさしいね」

俺が泣いてた理由を聞いて、みかどって名乗った女の人は笑った。高校生っていったら大人みたいなもんだと思ってたのに、みかどの笑顔はなんか子供っぽかった。

「やさしくないよ」
「やさしいよ。だって、ほんとは暴力なんか嫌いなんでしょ?」
「うん。だから、そのきらいな暴力をもってる俺は、やさしくなんかないんだ」

また泣きそうだった。
そしたら、また、頭を撫でられた。

「じゃあ言い直すけど、静雄くんは優しくない。でも、自分で自分が立派だとかやさしいとか思ってる人よりは、ずっといいよ」

やっぱりみかどは笑いながらそう言った。
あんまり自信満々に言うから、思わず頷いてしまいそうになる。だから俺はそっぽを向いた。

「そんなことない」
「あるよ」
「ない」
「僕が保障する」
「意味わかんねー」
「あはは。でも自分じゃない誰かがそう言ってくれたら、ちょっとは自信もてるでしょ?」

へんな人だ。女の人なのに僕とかつかってるし、なにが楽しいのかずっとわらってる。
さいしょは俺の泣き顔がおかしいのかと思ったけど、ちがうみたいだ。
俺の涙をふきとるその時だけ、みかどはさみしそうな顔をしていたから。

「ねぇ、静雄くんはいつもここで泣いてるの?」
「いつもじゃない」
「じゃあ、たまに」
「…ん」
「僕、夕方はいつもこの辺ふらついてるから、泣きたくなったらおいで。話くらい聞いてあげられるから」

それだけ言うと、俺の返事をまたずにみかどはベンチから立ち上がった。

「はい、これあげる」

渡されたのは、青色のキャンディー。ソーダ味って書いてある。

「じゃ、またね。静雄くん」

ひらひら、と手を振って、みかどは公園の入口へ走っていった。
また会えるって確信してるのか。それとも俺のことなんかほんとはどうでもいいのか。それくらい言葉が軽かった。

「…へんなやつ」

なんとなく二番目だったらやだな、って思った。