甘い拷問?
「……あのさ、イタリアちゃん」
「どうしたの、プロイセン」
「そんなに見られると、食べられねえんだけど」
イタリアが作って来たというティラミスをスプーンで掬い、いざ口に運ぼうとしたところでイタリアの視線に気がつき、プロイセンは困ったように笑う。
ティラミスが食べたいのかとも思ったが、自分で作って来た以上欲しければ自分の分も用意しているだろう。イタリアの意図が読めず、プロイセンは困惑したままイタリアを見つめ返す。
「え、普通に食べてくれて良いのに」
「見られてるとなんか恥ずかしいだろ、間抜けに映ってそうで」
「そんなことないよー! プロイセンの食べてる時の顔、俺可愛くて好き」
にこっ、と微笑まれてしまえば悪い気はしない。好きな相手であれば尚更。
だからこそ、見つめられるこの状況が恥ずかしいのだが。
礼を言って良い物かわからずプロイセンが視線を彷徨わせていれば、それにね、とイタリアが笑う。
「プロイセンの食べてる時の顔って、ちょっとえっちだから好き」
「い、イタリアちゃん!?」
ぺろ、と子犬がじゃれるように口の端を舐められ、プロイセンはスプーンを取り落としかける。舐めた側のイタリアはあくまでもにこにこと笑っていて、プロイセンは顔を真っ赤に染める。
「ねえ、食べて? 俺、プロイセンの食べてる顔がみたいなぁ」
無邪気にねだるイタリアをプロイセンはまっすぐ見返せず、視線をうろうろとさせる。すると手に持ったスプーンを奪い取られ、ティラミスを掬い上げたイタリアにずい、とスプーンを差し出される。
「はい、あーん」
「イ、タリアちゃん、それはちょっと……」
「あーん」
ね? と微笑みかけられ、プロイセンは戸惑いながら口を開く。スプーンを押し込まれて口を閉じれば、コーヒーの苦みと生クリームの甘みが口いっぱいに広がる。
「美味しい?」
問いかけに頷けば、じゃあもう一回、とスプーンを差し出される。
「イタリアちゃん、もう、自分で食うから……」
「俺がプロイセンに食べさせてあげたいの。ダメ?」
小首をかしげて言われれば、断る事もできない。けれど良い、と口にするのは気恥ずかしくて、プロイセンは口を開く。
結局ティラミスを食べきるまでこのやりとりは続けられ、プロイセンはしばしの間、甘い拷問に悩まされたのだった。