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いまわのきわに至るまで

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帝人は静雄のことが好きだった。
大好きだった。
でもそれは、臨也に向けるものと同じような胸を締め付けるような想いではなく、
兄に向けるような、憧憬を含んだ親愛の情だった。

だから、静雄にそういった意味で好きだと告白され、触れられたとき、大いに戸惑った。
けれど、静雄の、拒絶されることに怯え、けれど、一分の望みに掛けてこちらを見つめてくる哀しい瞳を、
帝人は拒絶することが出来なかった。
これでいいんだ、と自分に言い聞かせて、受け入れた。

いや、正直に言おう。
帝人は逃げた。自分の想いから、臨也から。
静雄のもとへと、静雄の想いを利用して、逃げたのだ。
抱く感情は少し違っていたが、それでも、静雄となら、穏やかな関係を築けるだろうと。

静雄との生活は実際にとても穏やかで、時々激した静雄が自分を抑えられなくなることがあったが、
帝人が辛抱強く声をかけて、その背に触れれば、不思議と静雄の激情は収まった。

静雄さんに比べて、臨也さんはひどい人だ。
帝人は心の中で反芻する。
どうしようもない人だ。
静雄さんが目にした瞬間にいつも殺そうと思ってしまっても仕方がないくらい、最低な人だ。
なのに、自分は彼に惹かれてやまない。
彼の何が好きなんだろう。
そう、何度も自問自答した。
彼が提供してくれる”非日常”に惹かれているのではないか。
ただの好奇心ではないのかと、何度も何度も自問自答した。
けれど最後に溢れて来るのは、彼にもっと近づきたい。彼のことをもっと知りたい、触れたい、
そんな、同姓に抱くはずもない感情で。

認めざるを得なかった。
自分は臨也に惹かれていると。その感情は静雄や、正臣、園原さんに抱くものとは別のものなのだと。

だが、それを受け入れることは出来なかった。
受け入れ、その感情にしたがって動くことは、今までの自分を全否定するに等しいものだと思った。
彼に付いていくことは、今までの”日常”に背を向けることで、それは、
帝人が望んだ”非日常”との関わり方とは全く違った。
彼を認めることで、自分が自分でなくなってしまうようで、恐ろしくて、帝人は。

穏やかな静雄との関係に逃げた。


「竜ヶ峰」
真剣な瞳に見据えられ、口付けられる。
「愛している。」
労わるように、けれど、隠し切れない熱を秘めて、抱きしめられる。
「…僕もです。静雄さん。」
その言葉に、痛みを押し隠して、帝人は応えを返す。
ゆっくりと背後に押し倒されて、二人の間を隔てる衣服を取り去られる。
そして、熱に浮かされた行為の中で、静雄の思いのたけを受け入れる。
嵐のような衝動が去った後は、ただ穏やかに抱き合い、
触れてくる体温には、ひたすらに愛しさが募る。

けれど----

静雄は気づいていた。
行為が終わった後に帝人がいつも、悔いるように、懺悔するように、布団の片端でうずくまっていることを。
その頼りない背中が、「ごめん、なさい。」と誰に対してか分からない謝罪の言葉をうわごとのように
呟いているのを。
そして、あの忌々しい男にむける帝人の視線には、怯えだけでなく、
もっと深い想いが含まれていることを。
静雄は気づいていた。
けれど、気づかないふりをしていた。

だが、もう、きっと、限界だったのだ。
二人でいるときは明るく振舞っている帝人が、一人になるとぼんやりと中空を見つめているらしいことが増えた。
また、「最近ちょっと太りすぎちゃって。」と下手な嘘で笑ってごまかしていたが、食事もあまり喉を通らない様子だった。
そして、眠っている間に泣き出してしまっていることもあった。
静雄が声をかけた時は、そんなことを全く感じさせない微笑を向けてくる帝人の頬に、
隠し切れない疲労の影が濃くなっていっていった。

そんな矢先の出来事だった。

『衝撃情報!』
と題打って、ダラーズの掲示板に転載されたURLの先には、柄の悪い書き込みが多い掲示板があって、
そこに、こんなことが書き込まれていた。
『折原臨也が○○○でへまをして、死にかけてるんだってさ。』
『面白いじゃねーか、とどめさしにいくか。』
『よせよせ、お前なんかが行っても巻き添え食って死ぬだけさ』
その書き込みを偶然見つけ、呆然とPCの画面を見つめる帝人のその背後で、
同じ内容を見ていた静雄は、声を掛けた。
「帝人」
びくり、と震える肩。初めて気づいたように帝人がこちらを見上げ、
「こ、こんなの嘘ですよね。臨也さんって殺しても死ななそうですし。」
青褪めた頬に無理やり微笑を浮かべて言い募る帝人に、
「言って来い」
そう告げると、帝人の表情に、困惑と、怯えのような色が浮かび、
「…え、、と、しずおさ…」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ帝人に、静雄は、言った。
「あいつが、気になるんだろう。」
「あ…」
その言葉に、帝人の唇がわななく。
帝人は、何か言わなくては、と、必死に言葉を探すが、何を言ったらいいのか分からなかった。
静雄はやさしく微笑んだ。
「俺はいい。いいから、お前のしたいことをしてこい。」
追い詰められたように青ざめる頬。
噛み締めた唇を、小さく開くが、その唇は何も紡げず、ただ震える。
「はやくいけ。今お前がするべきことをしなくて、
 一生悔やみ続ける道を選んだら、そのほうが俺は許せない。」
少しきつめにそう告げると、びくりと震えた帝人は、ようやく、言葉を紡いだ。
「ごめん、なさい、静雄さん。ごめん、なさい。ごめん、なさ…」
震える声で告げるその言葉は、真実懺悔の気持ちを含んでいたけれど、
そんなものは静雄は求めていなかった。
「さあ、早く行け。」
もう一度告げると、それでも帝人は、震えながら俯いていたが、
しばらくして、ようやくその顔を挙げたときには、意を決したようにその唇を引き結んでいた。
「…ごめんなさい、静雄さん。僕は、いきます」
青褪めた表情でそう告げて一度頭を下げ、
その後は、一度も振返らずに、駆けていった。

静雄は、自分の狂おしいまでの初めての恋は、ここで、完璧に終わったことを知った。
だが、何故かすがすがしい気分だった。
相手があのノミ蟲だというのは気に食わないが、自分の愛しい少年が、
ようやく自分の思いに向き合えたことが、何よりの僥倖だと思った。

さて、俺は喧嘩人形らしく、あいつの邪魔をするやつ全部をなぎ倒してやろうかね。

きっと、臨也がいる廃工場の近くに潜んでいるだろう、
このくだらない茶番劇の首謀者たちをなぎ倒す決意を込め、拳をばきばきと鳴らした。
作品名:いまわのきわに至るまで 作家名:てん