ゆめのすくいて
どこにも明かりが見えなくて、その闇の先も見えなくて、
まるで、今の自分の心のようだ、と思った。
歩き出すと、地面は、ふわふわと、たよりない感触を返した。
ああ、夢か…。
小さく嘆息し、いつになったらこの中途半端な悪夢は覚めるんだろうと思っていると、
数歩先がぼんやりと明るくなって、そこに、
胸をかきむしられるほど懐かしい姿が浮かび上がった。
「みか…ど…」
夢だと分かっているのに、ひどく動揺して、息が苦しくなる。
記憶の中の姿と全く変わらない、その小柄な少年がこちらを認めて、微笑んだ。
その唇が小さく動き、ずっと聞きたかった優しい声が聞こえた。
「大好きだよ、正臣。」
慈しむように微笑む。
「みかど…」
「戻ってきなよ、正臣。
園原さんも、僕も、いつでも待ってるから。」
子供に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「みかど…、俺は、戻っても、いいのかな…」
恐る恐る言葉に出すと、
「うん、もちろんだよ。」
安心させるように、微笑みながら大きくうなずいた。
「だから…早く帰ってきてね。正臣。」
凪いだ瞳はそのままに、帝人は言葉を続けた。
「ずっと、待ってるから」
「帝人…」
恐る恐る、その頬に腕を伸ばそうとする。
「…でないと、ぼくは…」
「帝人?」
突然、今までと声の調子が変わったような気がして、不安げに問いかける。
その次の瞬間、笑顔の輪郭を残したまま、急に帝人の輪郭がゆがみ、闇にまぎれて消えてしまった。
「帝人…!?」
慌てて帝人がいたところに手を伸ばすが、そこにはただ空虚な闇が広がるだけで。
「みかど…」
ぽつりと闇に取り残され、ひどい悪寒に襲われる。
ぶるりと震え、自分の体を抱きしめたとき、唐突に目が覚めた。
おぼろげに開いた瞳には、最近ようやく見慣れた部屋の天井が映った。
隣を見ると、沙希がすうすうと寝息を立てて寝ていた。
その姿にほっと息を吐くが、先ほどの夢を思い出して、不吉な予感に身を震わせた。
帝人、何かあったのか…。
池袋において来た二人に合わせる顔がなくて、ずっと逃げていた。
それでも、ネット上のチャットで、仮初の交流が出来るから、それだけで十分だと自分に言い聞かせて。
だが、先ほどの夢を思い出し、言いようのない不安に襲われる。
ただの夢だ、だが---。
頭の中を先ほどの帝人の声がこだました。
”でないと、ぼくは----”