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わるいゆめ

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「青葉君」

穏やかに声をかけられて、黒沼青葉は「なんですか、先輩。」と恭しく返す。
「また、西口公園近くでダラーズの一員と思しきグループが恐喝まがいのことをしているようだから、
 ブルースクウェアの手の空いている子達に向かわせてね。」
僕は別件で用事があるから、と、にっこり微笑む帝人に、
「分かりました。」
と了承する。
「こき使ってごめんね。でも、これも、理想のダラーズを作るためだから…」
申し訳なさそうに言う帝人に、
「遠慮しないでください、僕たちは同じ目的を持つ同士なんですから。」
自分でも嘘臭いと思う言葉を舌に乗せ、微笑む。
その言葉に、帝人はほっとしたように息をつき、
「そうだね、一緒に頑張ろうね。」
自身も最前線で粛清に繰り出しているため、額に絆創膏を貼った顔を和ませた。

一緒に、か…。
帝人が去っていったワゴンの中で、青葉は先ほどの帝人の言葉を繰り返した。
先輩、粛清がすべて終わったら、僕たちをどうするつもりなんですか。
心の中で問いかけた。
青葉の本当の目的を、ブルースクウェアの存在理由を知ったら、帝人はブルースクウェアもダラーズの一員として認めないだろう。
そんな確信があった。
そうなれば、帝人はブルースクウェアも排除しようとするのだろうか。
そこで、青葉は口元を嘲りの形にゆがませた。
ダラーズの創始者と言えど、帝人が動かせる部隊なんて、実質僕たちしかいない。
粛清が終わったあとのダラーズで、帝人と青葉にとって都合のいい人間しかいないダラーズで、
僕らを追い出そうとしても、追い出せませんよ。
青葉は、心の中で、帝人の無力さを嘲笑った。
あの首なしライダーや、平和島静雄を味方にできればあるいは、違うかもしれないが、
ダラーズにそう拘りのなさそうなあの二人が、帝人の「理想のダラーズ」のために動くとは思えない。
実際、平和島静雄はつい先日、ダラーズからの脱退宣言をしたという。
あとは、折原臨也だが…。
脳裏に浮かんだ忌々しい姿に舌打ちしたい気分になる。
あいつは、邪魔だ。
僕にとっても、ダラーズにとっても。
ダラーズの影の支配者気取りで、争いの種をどんどんダラーズに運んでくる。
それを恐らく知らない帝人は、臨也を信頼しきっているようだった。
あいつの正体を告げるべきか告げないべきか。
どちらがこれからの自分にとって有利か、考える。
不用意にすべてをばらすと、自分にとって不利なことが帝人に伝わる恐れがある。
たとえば、過去のブルースクウェアと、帝人の「親友」だという、黄巾族の元”将軍”の関係とか。

しばらくは様子見か…。
いくつかの可能性を考え、その結論に至る。
不愉快な要素もあるが、概ね、青葉は今の状況に満足だった。
さあ、次はどんな面白いものを見せてくれるんですか。
全く平凡そうに見える少年が秘めていた狂気が、どこまで行くのか。
そして、何を見せてくれるのか、それが愉しみでならない青葉だった。
まあ、僕にとって不利益でない間だけですけどね。

表向きは帝人を建て、裏からダラーズという巨大組織を自分が支配する未来を想像し、
青葉は、愉しげに笑った。
作品名:わるいゆめ 作家名:てん