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勝手にただいま。

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武田信玄が倒れた後、真田幸村が武田を背負うことになった。
国を背負うことは想像以上に重く、彼はその重圧に日々心を悩ませていた。
執務を行う机に向かう幸村の胸中に、謙信の言葉が蘇る。

『おまえは あのおとこのそばで なにをみてきましたか?』

自分はお館様の何を見てきたのだ。何を学んできたのだ。何を……。
どうしようもない問いをぐるぐると考えてしまう。
答えなど出ない。
どうすればいいのか。
それは自分で答えを出すしかない。
もう、お館様を頼ることは出来ないのだ。

その時、

カタン

と、背後で何かが動いたような音がした。

(刺客か!)

幸村は背後を振り向くが、誰もいない。
疲れているのかもしれない、と思い、再び机に向かう姿勢に戻ろうとした。
が、

「よ」

そこには先客がいた。
机に先客がいる、というのもおかしな話だが。

「……は?」
机の上に、自分よりやや年上位の男が立っている。
「大きくなったな、弁丸。ああ、今は幸村か」
弁丸。
それは自分の幼名だ。何故この男がその名で自分を呼ぶのだろう。
「し、失礼だが、貴殿は何者だ?」
「おいおい、俺を忘れるか? お前のお父さんだぞ」
…………おとうさん。
……お父さん?
そういえばこんな顔だった気がする。幼い頃に亡くなったから、記憶はややおぼろげだが。
自分とよく似ているが、やや目元は涼やかで、熱血漢という感じはしない。
ああ、思い出してきた。確かにこれは自分の父親の顔だ。
「……お父上?」
「おうよ」
余りにもあっさりとした肯定。

その余りにも現実離れした親子の邂逅は、一時的に幸村の心から重たいものを取り除いた。

「お、お、お父上ええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」

久しぶりに屋敷に幸村の絶叫が響き渡ったのであった。
作品名:勝手にただいま。 作家名:はるぽん