風邪
それら全てが今、正臣を襲っている。
心なしか体が火照っているような感じもあった。
「大丈夫?」
「…ダメかも」
心配そうに顔を覗き込む沙樹に、思わず気弱な言葉を漏らす。
風邪を引いたのは何年ぶりだろうか。
少なくとも沙樹に出会ってからは風邪を引いた記憶はない。
「熱、結構ありそうだね」
「あー…。うん、多分…」
額と額を合わせ、沙樹はその熱さに主観的な判断を下す。
普段は沙樹の方が、少しだけ体温が高い。
それなのに今日は、沙樹が熱いと感じる体温が正臣から伝わって来ている。
「ちょっと横になる?」
「そうするー…」
そう言って、正臣はパタリとベッドに体を預けた。
けれど体の辛さからか、すぐに眠りに落ちることは出来なかった。
「ねぇ正臣。何かしてほしいこととか、ある?」
「あー…じゃあナース服で看病してほしい」
「そんな冗談言えるなら、まだ大丈夫そうだね」
「いや、至って本気なんだけど」
苦笑いをする沙樹に、正臣は真剣な表情で答える。
そんな正臣にクスクス笑いながら、沙樹はタオルケットを掛けた。
「そうやってふざけてると、熱下がらないよ?」
「うー…」
ぽんぽんと、幼い子を寝かしつけるような仕草に、正臣はつられるようにして子供がぐずるような声を出した。
そんな正臣の手に、温かいものが触れる。
そこに目をやると、触れていたのは沙樹の手だった。
「こうやって、正臣が目を覚ましても寂しくないように、手、繋いでおくね」
「…すごいサービスじゃん」
「でしょ?」
正臣の言葉に微笑みながら、沙樹は幸せそうに繋いだ手を包み込んだ。