はかばで わらう
墓参りについてきてくれたのは、おれが憧れてやまない女性のお兄さんで、その性格は、彼女と照らし合わせてみても、納得、というよりは、笑えてしまう感じだけれど。
「花を、なぜ散らす?」
海からの風もきついこの墓地の一画。その白い石には墓碑銘も名も、数字さえも刻まれてはいない。そのうえ、墓の下には誰も眠ってなどいない。おれよりよほどボス業が似合う男にいわせると、『きもちわりい』だそうだ。
「花が・・花を供えても、ここには誰もいないじゃないですか・・だから、残してもしょうがないかなって」だから、毎回花を持ってくるが、毎回それを後悔して、一気に凍結させたそれを、こなごなにするのだ。
「ある男にいわせると、おれが作ったこの墓は、ただのおれの自己満足で、おれにかかわって亡くなった人たちは、こんなんじゃうかばれないって。おれも、その通りだと思います。どこかで誰かが巻き込まれたりして亡くなった時、おれはその人の葬式には参列できない。だから、ここに来て、その人を悼む気分を味わうんです。自分のために建てた墓だから、最後におれが入って、そんで、なにもないこの石の表面は、このままでいいです」
なんて自虐的。恥ずかしくてわらってしまったら、ひゅ、と拳をくりだされた。
「ここに墓参りにきている回数だけ、おまえはこの石の下に入ってるのをおれは知ってるぞ。そうしてまた、這い出して戻る。花を砕いて散らして、誓いをあらたにする。さわだ。おまえは、そういう、強い男だ」
眼前の拳から、その顔へピントを移せば、不敵に微笑んだあと、逆の拳がとんで慌ててよける。そのままワンツーのリズムになって、墓地には不似合いな軽い運動をした。
「次回も、おにいさん、一緒に来てくれますか?」ひさしぶりの呼び方に、相手があの、あけっぴろげな笑顔でもって、極限まかせろ、なんて肩を組んでくれた。さっきのひさしぶりの呼びかけが嬉しくて、元気が出たと言ったら、返った笑顔は大人の男のものだった。彼女のとは違うけど、この人の笑顔、どれも好きだな、と笑えた。