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憂鬱はぼくをはなしはしないが

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(ちがう、ちがう 違う そんなことを、そんなふうに)
(利用 させるために 恋をした わけじゃない)

(ちくしょう、胸くそ悪ぃ)
静雄の脳内では、下卑た男の勝ち誇ったような顔と言葉が延々と回っていた。数日前の、こと。下校途中の帝人を呼びとめ、会話をしていたのを見ていたらしい 男たち。それらは今日、静雄に絡み 鬱陶しげに話を聞いていた静雄が低い沸点を過ぎ、自販機を持ち上げて応戦しようとしたところに声を上げた。
(「俺たちに、何かしてみろ。 お前と一緒にいたあの ガキ」)
(「あいつが どうなっても 」)
静雄は、男がどう言葉を続けるつもりだったのか知らない。ぷつり、と線が切れたように、静雄は男が言葉を続けるよりも先に声を発した男の顎を陥没させ、体を宙に浮き上がらせた。ナイフも意味などない、男の意識が完全に途絶えたと分かった瞬間仲間は散り散りに去って行ったが、静雄は男たちをみつめながら、こきりと首を回した。

思いだしたくもない男の言葉を反芻しながら、静雄は舌打ちを行い、近くにあった自販機にすれた視線を送る。あのガキ、単語だけが頭を巡り、それと同時に帝人の柔らかな笑顔が記憶から呼び覚まされる。数度目かの男の声のリピートに、静雄は強く顔をしかめた。
「うるせえんだよ!!」
自販機を持ち上げ、苛立ちを発散させた静雄は、カランと軽い音を立ててコンクリートに転がって行くひしゃげた缶が転がって行く様子を見つめた。からから、と回って行く缶は、ある男の足元で止まる。
「おやまあ。 公共物に八つ当たりするのは感心しないなぁ。・・・まあ、今更だけど」
人を見下した上に立っているような、嘲笑うかのような声音。今最も聞きたくはなかった声に、静雄の眉は盛大に歪む。臨也はにこりと笑い、右手で弄んでいた携帯をぱちりと閉じる。役不足だったかな、臨也の声に、静雄は急に醒めた心地になって ぎり と歯を食いしばった。
「・・・臨也、てめぇ・・・」
「生還オメデトウ、シズちゃん。 実に、残念だよ」
ぱくん、携帯を閉じた臨也は、にこにこと笑いながらジャケットについているポケットへ左手を入れた。軽く目を伏せながら笑う臨也の声に、静雄は暗い面持ちで状況を把握して行く。ナイフを持ってたはずなんだけど、臨也の唇はすらすらと動き、瞳は笑わないまま笑顔の言葉は羅列を重ねていった。
「カスリ傷一つ、だなんて ホント シズちゃんはとんだ化け物だ。どうしたら死んでくれるのかなぁ」
「おい」
携帯を弄りながら、臨也は 困ったな と端正な顔立ちから溜め息を吐く。静雄は臨也がこの度の襲撃の黒幕であることを確信しながらも、男の声と帝人の笑顔が瞼にちらついたまま拭いされない不安のままに声を上げた。臨也は ふ と笑い、静雄の言葉を無視する。
「外側からじゃ全然だめ だし」
「臨也」
「やっぱり 内側からかな」
「お前  帝人に何かし」
ああ、そうだ!静雄が疑問の確信に触れようとしたその時、臨也は楽しげに笑って大げさなほどに声を上げた。笑顔と、静雄を見上げるあの視線、大切な、存在。ぐるりと眩暈を起こしそうな、不安。静雄の動揺に気付いている様子で、臨也は数回帝人の名前を呼んだ。確かめるように言葉を発する臨也に、静雄はきつく睨みを利かせる。
「ねぇシズちゃん。 もしも 帝人くんが壊れたらさぁ」
臨也は弄っていた携帯を開き、朗らかな笑みを見せながらかちかちと操作を行った。やがて携帯を耳元につけた臨也は、静雄へ にこり 完璧な笑みを見せる。
「シズちゃんも壊れてくれるの?」
笑顔、笑顔、その笑顔に、帝人が見せた笑顔がだぶる。世界で一番護りたい笑顔と、世界で一番消したい笑顔が 混じる。静雄は傍にあった標識を片手で壊し、鈍い音とともに持ちあげた。

(違う、こんなのは 違う )
(こんな奴に 利用されるために 俺は あいつ を)

静雄は、冷めた目に臨也への怒りだけを敷き詰めて、きつく唇を噛んだまま どうしようもなく傷ついたような表情をみせる。臨也をまっすぐ睨んだ静雄は 一呼吸置いて 標識を振りあげた。

(俺は あいつを 好きになったんじゃ ないのに)

「しね」
短く吐き捨て、標識を振りまわす。圧倒的なまでの力は、優しく笑みを浮かべ自分を見る少年を守れるのか。不安にかられた静雄の顔に、臨也は透明な瞳で笑った。

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護るから、俺の、こんな力で良ければ全部使って 護るから
俺が原因で お前を困らせているのに 耳触りのいい言い訳を、胸の中で繰り返しながら