死者と戯れる
「・・・ニコル?」
若草色の頭を傾けて、ニコルが微笑む。彼はアスランを兄のように慕っていて、けれど時々アスランよりもしっかりしていた。アスランの隣に腰掛けて、ニコルが続ける。
「もう、終わったんでしょう?」
「・・・そうかな」
プラントは敗戦国となった。もちろん地球軍も。第三勢力の介入によって、どういうわけか、オーブの一人勝ちで、戦争が終わった。
「きっとこれから大変だろうな。ジェネシスの関係で、外交上いろいろ不利になる」
「どうしてそんなこと、アスランが気にするんですか?」
きょとんとした顔でニコルが尋ねる。その表情が彼を年相応に見せる。彼はまだ15歳だったのだ。
「どうしてって・・・」
一パイロットでありながら、政治的なことを無意識に考えてしまうのは、きっとパトリックの教育の賜物だろう。アスラン自身、こんなことになるまでは将来プラントを治めるのは自分だと、まったく疑っていなかった。
「プラントのことを、アスランが考える必要ないですよ」
「え?」
労わるようにニコルが微笑みかける。彼は戦中も、キラとの戦いで悩んでいたアスランを気遣ってくれていた。
「そういうわけには・・・」
「だって、考えたってどうしようもないのに。残っているクライン派の議員にまかせればいいじゃないですか」
ザラは引っ込んでいろということだろうか。彼らしくない嫌味にアスランが訝しむ。
「ああ、ちがいますよ!勘違いしないでください」
慌てて、ニコルが首を左右に振る。僕の父もザラ派ですから。とニコルは眉を下げて言った。
そうだった。アマルフィ議員は、穏健派から急進派は変わったのだった。―――――ニコルの死後。
「ニコル・・・?君は・・・」
死んだのではないのか?
アスランの疑問に気づいていない風に、ニコルはにっこりと笑う。
「すみません、アスラン。話を戻してもいいですか?」
「・・・ああ」
「さっきのことですが、僕は別にザラ派だから出てくるなと言ってるわけではないんですよ」
紛らわしい言い方をしてしまいました。とニコルは頭を下げた。
「ただ、アスランには必要ない、と言ってるんです」
ニコルはベッドから離れ出入り口へ向かう。
「だからどうして・・・」
困惑しきりのアスランとは対照的に、ニコルはにこにことしている。
「だって、プラントのことをいくら憂いたって、ここ(オーブ)にいるアスランにできることなんてないでしょう?」
呆然としているアスランに構わず、ニコルは部屋を出て行った。
「アスラン。さようなら、どうか幸せに」