山崎 春の土方祭り
「山崎春の土方祭り」 ~本誌あんパンネタ萌え突発SS
「ったく。アイツは何やってんだか!」
鬼の副長、土方は胸のポケットから煙草をとり出し火をつける。イライラを鎮めるには煙草が一番だ。ふぅ、と肺に有害物質を送り込むとようやく少し苛立ちが収まってきた気がする。
事の始まりは、巡回中にふとアレが偵察中の近くを通ったことだった。
アレの姿を見つけたのはよかったが、こともあろうにターゲットである女と接触したのをこの目で見てしまったのだ。
女に向ってニコリと人の良さそうな笑みを向けた瞬間、土方は怒りと共にじわりと苦いものが胸に広がったのを感じた。
その怒りの赴くまま、向かった先は、もちろん、アイツ…山崎が潜伏しているアパートの一室だった。
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山崎は突然の副長来訪に驚いた。
その驚きは、このあんパン地獄の中に女神様が表れたくらい、うれしいものだった。
(俺の女神様~ッ!いや、土方さん~~~!!)←この心の叫びにはたくさんのハートが散りばめられている。
本当はぎゅうっと抱きしめたいのだが、寸でのところで耐えた山崎である。
…内心ドキドキしながら逢いに来てくれた理由を訊く。
「…テメェ、マル対の女と何接触してんだよ。ターゲットとは接触しちゃいかんだろがァァァ!!!」
そう一気にどなった土方。と同時に山崎の腹に鈍痛が走った。
「アイタタタ…」
さらに、頬にも土方の拳がクリーンヒットする。
「ちょ!アイタタタ!待ってくださいよ!副長!
あれは、あんパンを大量に買ったのを見兼ねた女が、話かけてきただけで…」
「うっせぇ!!!」息をハァハァとしながらなおも殴ろうと拳を繰り出したところでパシっと山崎が拳を止めた。
「や、まざきィィィ!」
土方が唸る。
もう、まったく俺の土方さんてば。
そのまま、力づくでじたじたと暴れる土方をぎゅうと腕でホールド、いや抱き締める。
「ちょっと、ほんと、落ち着いてくださいよ、副長」
言いながらさらに腕の力を強くする。
「副長、お願いですから、あんまり暴れないでくださいよ」
言いながら土方の背中をぽんぽん軽く叩く。
「テメェ、ムカつく!
あんな女、なんかと……」
幾分バイオレンスな衝動は収まったようだがまだ低く唸っている。
恐らく本人は気づいてないだろうが、山崎は気づいた。
(土方さん、それってもしかして…いや、もしかしなくても……
ヤキモチですかァァァ!!!)
こんな状況なのに、少女マンガのように山崎の心の中はバラの花で埋め尽くされるようだ。
(土方さんがヤキモチ焼いてるゥゥゥ!)
これだけで偵察の疲れが霧散してゆく…。
俺、どんだけ土方さんが好きなんだろう…。
「俺、土方さんのこと、大好きです!愛してます!」
「バカッ!てめぇ、こんな時に何言ってやがる…」言いながら土方の頬が薄ら紅く染まる。
「ほんと、困っちゃうくらい、土方さん一筋ですから!!愛してます!土方さん!!」
「バカヤロ……ンッ…!!」
更に頬を紅く染めながら言い募ろうとする土方の口を自身の唇で塞ぐ。
「もう、土方さん、俺、好きすぎてほんとどうしよう、って思いますよ…」
言いながらさらに口づけを深くする。
しばし傍らに転がっているあんパンよりずっと甘い口づけを交わしあったのだった…。
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「解せねぇな…」
土方は自分自身、なぜ思わずこんな衝動的な行動を取ってしまったのか自分で自分がわからなかった。
だが、山崎の言葉に、抱き締める力に、口づけに、山崎の想いが伝わってくるようで…。
今まで心の中にあったじわりとした苦いものがすっかり無くなって、かわりにぽかぽかと暖かいもので満たされているのを感じた……。これが、好意というものなのだろう…。
恋愛に関して経験が殆どない土方は自身の心の揺れも初めてであり戸惑っていた。
が、もちろん山崎には内緒だ。
了