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さあ、ダンスを踊ろうか

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「さあ、アルフレッド。慎重に選びなさい。」

アルフレッドは、全く感情を読み取れない表情ではい、と返事をした。


ホールは静寂に包まれていた。
否。音がひとつもしないだけで、実際は様々な感情がごちゃごちゃとぐるぐるとどろどろと絡み合いながら渦巻いて、頭が割れそうなくらい煩い。



そんな中でアルフレッドは、生涯を共にする妻を選ばされていた。



ここにいる未婚女性の誰もが彼の妻になりたいと思っていた。
彼は、男性でさえはっと息を飲む程の美形であったし、なにせ大金持ちの権力者の跡取息子である。
彼も、財産も、とても魅力的だ。
彼のパートナーになりたくない、などという変わり者は、ここにはひとりとしていない。



アルフレッドは、ぐるりとホール全体を見渡した。
見渡す必要などないのだが。
行く先は、既に決まっている。




どうせ父さんは、彼女を選んで欲しいのだろうな、とアルフレッドは考える。

彼女、とは、アルフレッドの父が気に入っている、これもまた大層な金持ちの家柄のジェニーという女性だ。
父にとってその家との縁は都合のいいものなのだ。
ジェニーをなんとなく探してみると、偶然にもその傍にあの人がいた。



無意識に口元が緩む。



ああ、早く皆の困惑した、失望した、絶望した、怒りに震えた顔が見てみたい。











すっ、と足を前に出す。
数え切れない程の視線が追いかけて来る。
それでも、迷いなど微塵もなかった。


ゆっくりとあの人に近付いていく。
目の端でジェニーが目を輝かせたのをちらと捉えて、何だかよく分からないけれど、勝ち誇ったような感情が湧き上がった。

しかし、口に少しの笑みをたたえただけの無表情でその横を素通りする。
途端に、音のない空間が一瞬にして揺れ動いた。





何故彼女では、やったわ勝った、まだ望みはある―――




ホールの端――壁際にいた彼の前でぴたり、と足を止める。
それと同時に囁き声も止んだ。















「アーサー」












彼は目を閉じたまま、口を開いた。






「…とんだ茶番だな」
「ははっ…茶番といえばそうだね」


手を差し出し、腰をかがめて逃亡劇(ダンス)に誘う。


「そんな茶番に、付き合ってくれるかい?」


アーサーはゆっくりとまぶたを開き、にやりと笑った。


「今更な質問だな」


手の平が重なった瞬間、アルフレッドはアーサーの腰を引き寄せ、隠し持っていたボタンを押した。
ふたりの体は一気に上昇した。
ホールにいた人々は皆、呆気にとられた表情で見上げている。

天井の一部が開き、そこから外へとそのまま飛び出す。
上空には、ヘリが待っていた。


「お前…最初っからこうするつもりだったのか」
「当たり前じゃないか」

アルフレッドは最初から君しか選ぶ気なかったよ、とアーサーの耳元で囁き、唇にキスをひとつした。
アーサーは案の定顔を真っ赤にして俯いた。

ヘリの扉が開いて、菊の顔が覗いた。

「おふたりとも、そんな所でイチャイチャしている暇はないですよ。早くお乗り下さい」

プロペラの音に掻き消されないよう声を張り上げ、菊は言った。
取り合えずそれは正論だったので、ふたりは降ろされた梯子をよじ登った。


「菊に頼んでたのか!お前は全く…」
「いいんですよアーサーさん。私は好きでやってるんですから」


私はおふたりの恋を応援しておりますし、と謎の笑みを浮かべる菊。




「アーサー」
「何」
「選んでくれて有難う」





真っ直ぐに、真剣な瞳で言われる。





「…別に…俺は、お前がいいんだよ…」



アルフレッドはふいにアーサーを抱き締めた。


「…愛してる。君だけを」
「…ん……」


何と返せばいいのか分からなくて、でもその言葉は決まっていた。








「俺も、お前だけだ」






愛してる、と言い終わる前に荒々しいけれど、優しい口付けが振ってきた。





Fin.
作品名:さあ、ダンスを踊ろうか 作家名:おさや