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紡ぐ赤

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赤い糸とか、運命っていう類は信じているかと友人に尋ねた。俺のフレンドはロマンチストだなという感想の後に、美女と俺との運命的な出逢いなら信じる、との力説をされた。
ありえないと捨て置いてしまえない由縁が一つ。僕の小指には嘘なんか挟む隙なく、物心付いた時から一本の赤い糸が結ばれている。その糸は自分以外には見えない上に、そこにあるのが最早当たり前になり過ぎて現実味があまりないのが本音ではあるのだが。
自己嫌悪や後悔に沈む折り、ついついと引っ張られている。不器用だが暖かい慰めを送られている心地がする。その度に、これが糸電話になったら良かったのにと思わずにはいられない。何時まで経っても互いに一方通行なコミュニケーションが少しだけ寂しい。
しかし人は人同士、自然発生では何一つ共有出来ない筈なのにもうずっと、それこそ片時も離れずに繋がっていることへの証が消えることは一度すらない。
どんな人がこの糸先に居るのかという想像も期待もしない。この尊い寄り添いだけで充分なのだから。コミュニケーションがたったこれだけだとしても、損益関係なしにあるものを否定しないししたくなどない。


友人の誘いに連れられ、本来の好奇心に支えられ上京した。初めて見る、地元とはかけ離れた異国とも勘違いしてしまいそうな景色に圧倒される。
「池袋には絶対に近づいてはいけない奴がいるんだ」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、自動販売機が空を泳いだ。
目を丸くして、閉じられない口で目の当たりにする。へいわじましずお、と友人が呟く。金髪で、黒いベストの、男の人が信じられない光景を造っている。そして、もっと信じられないことが一つ。

ああ、糸の終着地点が今やっと此処にあるのか。唐突な衝撃に痺れ、鈍足気味な思考が脳を占拠してキャパは溢れる寸前になった。



必死過ぎてナンパの様だと自覚していてもこの不格好さに構っている余裕はない。そこにあるマックにでも入りませんかと誘いながら、逃げられないようにと精一杯シャツの袖を掴む。へいわじましずおさんは糸を何度も見直しながら呆然としている。友人は突然のことに顔を引き攣らせている。


ほんの少し欲をかくのならば、同じ名前の感情が相手にもありますように。この繋がりが互いに唯一でありますようにと、ささやかでいて贅沢な願いを唇にはのせない。只、胸の大事な処に仕舞いこんで置くだけにする。

か細い糸一本でこんなにも簡単に恋が出来ることを、僕は知っているから。
作品名:紡ぐ赤 作家名:じゃく