沈殿する部屋
同棲してるふたり。
窓の外は、ここ最近で一番の豪雨に見舞われていた。雨の一粒一粒がでかいんや。ダー、と雨の音が部屋に響く。俺は静かに目を閉じた。
(ええ音や)
ずずっと体が重力にしたがって床に落ちていく。二の腕にダイレクトな冷たさが伝わってくる。俺の体温とええ勝負や。閑散とした部屋には、俺の微々たる呼吸音と雨の音しか響かない。ああ、世界が終わるみたいやな。ありきたりやけど、このまま世界は終わる。大雨で沈むんや。
(この部屋が、いっちゃんはじめに、沈めばええ)
どこよりも早く、沈めばええ。床に投げ捨てていた携帯を手に取り、かこかこと文字を打っていく。かこかこ、送信、と。「送信しました」を見てぱたんと携帯を閉じ、また投げた。今度は、立たな取れん場所にいってしもたな。息がつまるが、嫌いじゃない。もっと、息苦しくなればいい。なんや、病んどるみたいやな、俺。
(しょうがないねん)
憂鬱なんや、この部屋に一人なんて。
(謙也さん)
ふいに、カーマインのカーテンが揺れた。なんで赤やねんと謙也さんはこのカーテンを選ぶときに言った。赤やのうて、カーマインや。アホな謙也さん。
「光」
静かな声が、部屋に響く。ぱっと振り返れば、びしょ濡れな謙也さんがそこにおった。
「な、」
「光」
体を持ち上げようと力を入れた刹那、ばたんと俺にのしかかる重み。謙也さんがぶっ倒れた。
「ど、ないしてん、」
「光」
そして、そのまま俺にキスをした。
「光、」
この人にしては弱々しい声。ああ、きっとこの人も、
「光」
どちらからともなく、俺たちはキスをした。