前の微笑みのままで
「おい!!竜ヶ峰!久しぶりだな」
「あっ!こんにちは静雄さん!!おひさしぶりです!!」
俺が声をかけた時の竜ヶ峰の表情は、前会った時と少しも変わらない、優しい微笑みだった
「今日は仕事なんですか?」
「あぁ。仕事ならさっき終わった。んで、ちょっと歩いてたらお前を見つけたから…」
「なら少し喋りませんか?久しぶりに会ったんだし」
「おう、そうだな」
隣で歩く竜ヶ峰に俺は、前を向いたまま話しかける
久しぶりに会っても、やっぱり竜ヶ峰はそのままで、こいつが今どんな表情をしているのか想像が出来てしまう
ふ、と竜ヶ峰を見たとき、肩からかけている鞄を握りる指に光る何かがついていることに気がついた
(…………………ゆ…びわ?)
確かにそれは竜ヶ峰の細い指にはまっていた
(なんでこいつは指輪なんか付けてるんだ?…まさか……うそだろ…?)
手に汗がにじんだ
呼吸が急に苦しくなる
眩暈がする
不安が押し寄せる
俺は竜ヶ峰の肩をぐいっと掴んだ
「痛っ…!」
竜ヶ峰の表情は歪む
しかし、それをきにかける余裕なんて今の俺にはない
「おい…お前恋人いんのか?」
「えっ!!?」
竜ヶ峰は俺の突然の質問にびっくりしていた
「いや…指輪してるから……」
照れくさそうに、でもとても幸せそうに竜ヶ峰はうなずいた
次の瞬間、俺の心臓は軋み、それと同時に相泣きそうになった
(……嘘だろ…なんでだよ!!!相手はだれだ…!?…まさかあいつか!?
俺はずっとお前のことが…………!!)
心の叫びがいっきに渦巻く
いっその事、こいつの腕を引っ張って、抱きしめて、この気持ちを全部ぶちまけてしまおうかと思った
でも…(でも、こいつは幸せそうに笑っている…)
「…あの…?静雄さん?」
その声にはっとした
「あぁ!!わりぃ!!」
すぐに肩から手を離し頭を下げた
「あっ!!いや…大丈夫ですよ!!そんなに痛くなかったですし!!頭上げてください!!」
本当は違う…肩を掴んでしまったから謝っているのではない。謝ったのは少しでもやましいことを考えてしまったからだ
頭を上げないのは、今の自分の顔を見られたくないからだ
(あんな顔されて、こいつを抱き寄せて自分の気持ちを伝えるなんて…出来るわけないだろっ…!!)
自分に言い聞かせる
(こにままの関係だっていいじゃねぇか…こいつが幸せなら…それでいいじゃねぇか……)
「お前は…その…今付き合ってるやつのこと…
……好きか?」
ゆっくり頭を上げ、真っ直ぐに竜ヶ峰の眼を見ながら俺は聞いた
少し間をおいて、優し自分の髪を触りながら竜ヶ峰は答えた
「…はいっ……すごく好きです…」
「そうか…」
俺は精一杯の笑顔で竜ヶ峰を見つめた
その時の竜ヶ峰の表情は、前会った時とだいぶ変わった優しく、美しい微笑みだった