可愛い弟
敗戦の色が濃くなった現状にドイツの顔に焦りが浮かび始めた。
弟の不安を少しでも解消し、安心させたくて発した俺の軽口は思わぬ結果を生んだ。
「しけた面してんなヴェスト!
上がそんなんじゃ兵が不安に思うだろ?」
「兄さん…そうだな。」
『お兄様の教えを忘れたか?』、笑う俺に弟は微かに笑顔を零す。
このどんよりとした空気を完全に払ってやりたくて、安心させるために言った俺の言葉は、弟を、ルートヴィッヒを怒らせた。
「安心しろよ、負けてもこの戦いの罪は俺様が全部引き受けてやるからよ!!」
勝利と栄光は弟に、敗北と罪は俺に。
戦いを始める前からそう決めていた俺としては当たり前の言葉だったし、あいつらが怖がっているのは俺だ。
俺が居なくなればどうとでもなると、そう思って善意で言った言葉だったのだが。
「そこから先の言葉は、兄さんいくら貴方でも許さない!!」
それは弟からの初めての叱責。
俺が育て上げた弟は、俺に意を唱えることは今まで無かった。
俺に甘過ぎるほど甘い弟。
どんな我が儘をいおうと本気で怒る事なく。何を仕出かそうと困った顔で俺を心配そうに見つめ、たしなめるだけだったあの弟が…。
怒りに燃えるアイスブルーを見ながら俺は口の端がつり上がるのを抑える事が出来なかった!
何故って?
初めての叱責、それが俺が自分自身を軽く見た事への怒りだなんて!!この弟は本当にどこまで可愛いのだろうか!!!
にやつく俺に、弟は小言を零す。
何時もなら五月蠅いだけのそれも今だけは別だ。
ポコポコ怒りながら、眉間に深い皺を刻んだ弟は、しつこく俺に言いつのる。
俺から肯定の返事を貰う為に。
「聞いているのか兄さん!?」
「聞いてるぜ~。
お前、ホント俺様には甘いよなぁ。お前は俺をもっと利用して良いんだぜ?」
「必要無い。貴方は俺の傍にずっと居ればいいんだ」
犠牲など、身代わりなど論外だと言い切る弟に笑みが零れる。
俺を必要としてくれる可愛い可愛い弟。
だが、こいつは、愚かだ。未だに解ってない。
この戦いの贖いは生半可な事で済むはずがないという事を…。
だから俺は決めた。こいつは俺が守ると。
何でもしてやるよ。
可愛いお前の為ならば、そう我が身に替えてでも…。
兄離れ出来ない弟を見ながら俺は笑う。覚悟を胸に抱いて―。