月は満ち、やがて
いわく、如月洋菓子店のシュークリームを、会長が差し入れしてくれたらしい。
他にもおまけに差し入れしてくれた長月先輩ブレンドのコーヒーを今度は僕が作って、姉へと差し出す。
昨日に比べて比較的すごしやすい気温のせいか、開け放った部屋に入ってくる空気は涼しい。
コーヒーもシュークリームも冷たくて、おいしかった。
「ねぇみーくん、一ヶ月、楽しかったね」
コーヒーをゆっくり飲みながら姉が言う。
「そうやなぁ、一ヶ月、あっという間やったわぁ」
この仕事を始めるちょうど一ヶ月前は不安が大きかった。
あまり人と話したこともなければ絡んだこともない、自分たち二人がきちんと相手をしていけるのかと。
けれど始まってみればなんともない、みんな不器用な二人をそのまま受け入れてくれて、それから話してくれたり絡んでくれたり、とても自然に会話をすることができた。
仕事だからと気負っていたが、次第に肩の力も抜けていった。
そう、楽しかった。
こんなに人と話したこともないし絡んだこともない。
新鮮で毎日が楽しくて、自分たちの発言で笑ってくれたり喜んでくれたり、時には慰めてくれたりして。
姉も自分も常に笑顔で、話の中心は次第にツイッターになっていった。
誰に何を言われて、こうされて。
その日々が、とても楽しくてあっという間だった。
「みんなとこうやってお話できて、すごく楽しかった」
「ぼくもやわ」
「もう今日で終わっちゃうんだね」
「ちょっと、さみしいなぁ」
シュークリームをかじる。
如月洋菓子店のシュークリームの少し控えめの甘さが口の中に広がって、何だかすこし寂しく思えた。
パソコンの時計はもう少しで24時になる。
そうしたら、もうすぐやってくるであろう文月先輩と交代をしなければいけない。
「なんで6月、30日なんやろな」
「うん……もうちょっと、やっていたかったね」
姉が寂しく笑う。
後ろ髪を引かれるほどに、楽しかったのだ。
コーヒーで口の中のクリームを流し込む。
「……なんや、もうちょっとぼく、がんばってみよう思ったわ」
ことり、とカップを机に置いた。
「みーくん」
姉が何かを言おうとしたときに、こんこん、とノックの音がする。
時間だ。
まとめた荷物とカップを持って、扉を開けた。