はじめまして、知らぬ人よ
「あいつが死ねば万事解決するんだろ」
言うのと撃つの、どちらが早かったろうか。
ユーリは笑いもせずにそう言うと、引き金を引いた。その動作に一切の無駄はなく、戸惑いは全く感じられなかった。
ぱん、という軽い音。その場にいた全員が状況を把握できず、音の発信元であるユーリを見た。
「はい、おしまい」
漆黒の銃をホルスターに収納する。風に乗って霧散する硝煙の香り。鼻に慣れないその香りは、いまのユーリにとても似合っていた。
「ユーリ…?」
「ああ、悪い。カロルは血が苦手なんだったか…」
首を傾げ、しかしさしたる悪気も見せず、ユーリは皆の脇を通り過ぎた。
そして自分が撃った標的の生死を確かめる。呼気と脈拍、両方が途絶えていることをちゃんと確認するとユーリは再び立ち上がった。銃弾は心臓を寸分違わず撃ち抜いていた。即死だ。
「ちょっと、何、してんのよアンタ……」
カタカタと身を震わせながらリタが呟く。ごくり、と誰かが唾を呑む音が聞こえた。
絶命し、倒れているのはキュモール。イエガーと共に立ち入り禁止場所へと降りようとした瞬間、ユーリがキュモールを撃ったのだ。
先ほどまで軽口を叩いていたイエガーも口を噤んで、事の顛末を見守っている。その目は鋭い。
「何って、殺したんだ。こいつみたいに腐ったやつは、殺しても問題ないだろ」
さて行くぞ、と言うとユーリはエレベーターに乗っているキュモールを下へと蹴り落とした。
今までキュモールがいた場所にはユーリが。その隣にはイエガーが。
無意識のうちに己が持つ鎌兼銃の引き金に手をかけたイエガーを、ユーリは両目を眇めることで制した。
「その大振りな鎌で俺を切るか撃つかする前に、俺が撃つほうが早い」
それはユーリの言う通りだ。この超近距離の状態では、圧倒的にイエガーに分が悪い。
武器商人をしているイエガーならば、言われるまでもなく理解している。それでも武器を手に取ったのは、本能故だ。
「フ、フフフフ…。ミー以外にライフルを使うボーイがいるなんて、思いもしませんでしたよ」
「そうか?こんなん使うやつ幾らでもいるだろ。むしろ銃以外の武器持ってるやつのがマニアックだ」
「ミーは武器商人ですが、聞いたことないデース。それに見たところボーイはそのウェポンにとても慣れてる。ベリーベリーストレンジ」
「俺はこれが“仕事”だからな」
「ユーのギルドは海凶の爪のライバルギルドですか……」
「ん?いや、そうじゃねえだろ」
なあカロル。ユーリが問えば、カロルはぶんぶんと首を縦に振る。
カロルの鬼気迫る様子を見てユーリは再び小首を傾げた。
「どうかしたのか、カロル」
「ユーリ、あの、」
怯えながら、それでも確かに、エステルがユーリに話しかけた。
カロルへと向かっていたユーリの視線がエステルへ向くと、過剰なほどにエステルは肩を揺らした。
「あなた、本当にユーリ?」
そうして、エステルが言えなかった言葉の続きをジュディスが告げる。
ジュディスの問いに目を瞬かせて、ユーリは、数拍後に笑った。
「俺は正真正銘ユーリ・ローウェルって名前だ。お前らとも面識がある。…だが、どうやら“お前たち”とは仲間じゃないらしい」
彼らが知っているユーリ・ローウェルではない表情で、目の前のユーリは嗤って見せた。
■蛇足解説(長いよ!)
このシーンに至るまでの流れ。
黒衣の断罪者の衣装歩いてるユーリを見て驚くパーティ。でも普通に一緒に行動。
一方断罪者ユーリは“顔見知り程度の知り合いたち”の不可思議な言動に戸惑うも、街や人々の反応から可笑しいのがむしろ自分だと悟って大人しくパーティに同行。様子見。
銃がメジャーな武器ではないことをなんとなく感付いて、以降剣を使ってみる。でも正直上手くいかない。
んで、イラッとしてたところでイエガーが銃を持ってるのを発見。衝動的に銃でキュモール殺害。…みたいな?
多分ザギと戦うときは剣で戦いたがると思う。銃だとすぐザギのこと殺しちゃいそうだし。
私の見解としては、
銃ユーリ>>デューク>|超えられない壁|>>ザギ>剣シュヴァーン=イエガー≒剣ユーリ=ジュディス>|超えられない壁|アレクセイ≒フレン>弓レイヴン
だと思ってます。うん。
銃ユーリがいなければ剣ユーリの順位はもっと上がるけど。
普通にザギより上になると思う。超えられない壁は無くなるけど。
作品名:はじめまして、知らぬ人よ 作家名:神蒼