二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

人形は舞台で踊る

INDEX|1ページ/1ページ|

 
『人形は舞台で踊る』



 光に誘われて目を開ける。と、その余りの眩しさに今度はすぐに目を閉じた。
 数度瞬きをするうちにぼんやりと風景が目に入ってきて、ユーリは取りあえず体を起こした。

「お目覚めかな」

 緩やかなまどろみから、一瞬のうちに浮上。
 自分の左側から聞こえた声に反応し、そちらを向く。一人の男が立っている。知っている顔だ。

「アレクセ、イ」
「その通りだ、ユーリ・ローウェル君。私のことが分かるということは、記憶はそのまま保持しているということか」

 ふむ、と一人で自己完結させると、アレクセイは魔導器の制御装置のようなものを弄り始めた。
 ユーリには何をしているのか全く分からない。そしてまた、ユーリは何故自分が此処にいるのかも分かっていなかった。

「……何してんだ、アレクセイ」
「君の調整だよ」
「…は?」

 訝しげに眉を顰めると、ユーリはアレクセイに返答求めて視線を送る。
 だがそれはあっさりと無視された。アレクセイの視線は、ただひたすら制御装置へと向かっている。
 その表情はとても真面目。なんとなく邪魔するのも悪いような気がして、ユーリは部屋を見渡した。
 全く記憶にない部屋。部屋自体は結構な広さだが、そこかしこに魔導器や魔核、聖核が置かれている。置かれている、というよりは乱雑に放置されている、と言ったほうが正しいかもしれない。
 聖核。それを思い出して、ユーリは更に眉間に皺を寄せた。自分は、何か重要なことを忘れている。忘れているということを思い出したのだ。
 必死に記憶の糸を手繰り寄せていると、急激に記憶が戻ってきた。そう、忘れてはいけない、重要なこと。

 ザウデ不落宮にて自分はアレクセイを斬った。アレクセイは、巨大な聖核の下敷きになって圧死した…はずだ。そして、その後自分はフレンの部下である女騎士ソディアに刺され、高台から海へと落下した。

「くそっ!」

 一瞬でもそのことを忘れていた自分に悪態を吐くと、アレクセイに掴みかかる。
 騎士の甲冑をつけていないアレクセイには妙な違和感がある。本当に自分が彼を斬ったとか、まるでそのことが夢のようで、ユーリはアレクセイに向かって吐き捨てた。

「なんで生きてる!!」

 ぎり、と唇を噛む。
 激昂するユーリを見て、アレクセイは深い溜息を吐いた。

「恐らく、聖核が落下したときの風圧で海に落ちたのだろう。君に斬られた傷はもう治った。一時は死ぬところだったが、生憎と怪我の手当てにはなれているのでな。まあ…それはどうでもいい。私は、あのとき死ぬつもりだった。生き恥を曝して生きているつもりなど毛頭なかった」
「じゃあ、なんで生きてる。そして俺の前に顔を出した!」
「……君が、私に続いて落ちてきたからだ」

 言いにくそうに視線を逸らしてアレクセイが告げた言葉に、ユーリは言葉を失った。そしてアレクセイに掴みかかっていた手を離し、呆然とその場に立ち尽くした。
 自分の話を聞く気になったのかは定かではないが、それでも先ほどまでよりは落ち着いた様子のユーリを見て、アレクセイは更に話を進めていく。ユーリが知りたくもない、真実を。

「君は死にかけていた。私よりもずっとだ。あの高台から落ちたとき、私は咄嗟にバリアを張った。無意識でのことだ。一流の術士には劣るが、一応騎士団長であったのだから使えないことはない。海に落ちて、海のなかで、私は死のうとしていた。咄嗟にバリアを使った自分の本能を呪った。だが…」

 アレクセイは目を細めて、ユーリを見た。
 何か愛しいものを、神聖なものを見るような眼差しで。

「だが、君が落ちてきた。君が海のなかに、私と同じ深度まで沈んできた。あのときの君は酷かった。私と違いバリアを使わず無防備に海に落ちた君は、あの高台から海へと叩きつけられて体中の骨が折れていた。もう助からないと、そう思った。それでも亡骸を陸に上げてやりたいと思ったから、君を抱えて水面に出た。そこには…本当に偶然だが、ザウデの隠し部屋へと続く道があったのだ。それが、この部屋だ」

 何か吸い寄せられるような感覚がして、アレクセイはユーリを抱えたままその隠し部屋へと続く通路へ入った。
 その道の先にはザウデ不落宮を支配したと考えていたアレクセイさえ知らない部屋があった。
 部屋のなかにはたくさんの魔導器。そしてたくさんの構想メモ。そして、ひとつの不思議な魔導器があった。

「その魔導器は人型をしていた。メモを読み進めるうちに、それは、人の記憶を移すものだと知った。しかも書き手はあのヘルメス。ヘルメスは、当にこのザウデの存在を知っていた。そして、ザウデの隠し部屋に外から潜って侵入し、この部屋で秘密の研究をしていたのだろう」

 人型の魔導器には、顔も髪もなかった。また、女性体でも男性体でもなかった。
 その理由やらは全てメモに書かれていて、アレクセイはその構想に寒気を覚えた。
 なぜならば、それは、禁忌を侵すものだったからだ。アレクセイであっても、一瞬寒気を覚えるほどの代物。ある意味、ザウデ不落宮と同等かそれ以上に貴重なものだった。

「この部屋に着いたとき、君はもう死んでいた。私は失敗を覚悟で君の記憶を入れ物に移した。そして、メモに書かれていた通りの工程を済ませた。そして今、君は私の目の前に立っている。これがどういう意味か、分かるかね?」

 じり、とユーリが一歩後ずさった。
 確かな恐怖がユーリの体の中を埋めていた。恐ろしい、知りたくない真実を知ってしまった。その恐怖がユーリを満たしていた。

「な、ん……」
「君はヘルメス作の魔導器となったのだ。ユーリ・ローウェル君」

 目覚めたユーリを待っていたのは、最悪の悪夢と絶望だった。





■いらぬ蛇足

アレクセイはいい人…なのか…?
結局この魔導器は試作品で、完成させる前にヘルメスは亡くなっています。
つまり未完成の魔導器であるユーリは、徐々に移された記憶を失っていくことに。
日に日にアレクセイ至上主義になってくユーリ。ふとした瞬間我に返って、そんな自分が嫌になって死のうとする。でも死のうとしても、また目が覚める。何度でも生き返る。そんな話。

きっと、ハッピーエンドにはならない。
作品名:人形は舞台で踊る 作家名:神蒼