降水確率は
「降水確率100パーセントだそうですよ。」
遠慮がちな声が俺の背に投げかけられる。
振り返れば声の主はやっぱり、
きっかり二歩。離れた所に立っている。
「なんか言った?迅。」
意地悪く問い返せば、彼は「ああ。」とか「うう。」といって、
逡巡しながら二歩の距離を詰めた。
「なに?迅?」
極上の笑顔(生意気な後輩ピッチャーには「胡散臭い」といわれた)で
なおも問えば、かれは律儀にさっきのせりふを繰り返す。
「降水確率は100パーセントだそうです。」
それがなに。とはさすがの俺でも言わない。
(そこまでしたら俺の可愛い後輩君が、泣きべそをかいてしまう)
「大丈夫って。慎吾さんを信じなさい。」
「でも…。」
なおも言い募る様子に、俺は少し意地悪をする。
「なに?迅ってば先輩よりお天気おねぇさんのほうを信じるの?」
「そ…そういうんじゃなくって!」
速攻できた否定に、内心ぞくぞくするような喜びを感じつつも
平静を装い、『そー言うんじゃなくて?』と、問い返す。
「お、俺なんかの買い物につきあったりして、慎吾さんが風邪引いたら…。」
予想のはるか上空を行く可愛いお答えに、
思わず今までの似非さわやか笑顔をかなぐり捨てて、
目の前の可愛い生物を思い切り抱きしめる。
「なんって!可愛いんだ!!迅!!」
「し…信吾さん…くるし…!」
じたばたともがく可愛い生物を更にきつく抱きしめながら、
俺は降水率100パーセントのおてんきおねぇさんに深く感謝した。