手のひら
(でも甘ェや)
合わせた両手はそのままに、首だけを動かして後ろを見やると、近藤さんはギョッとした表情を浮かべた後、苦笑いをした。
「なんだ総悟、気付いていたのか。」
「バレバレですぜ。」
俺がそう言うと、少し残念そうな顔をしてから、俺の隣にしゃがみ、両手を目の前の墓に向けて合わせた。
しばらくの沈黙の後、近藤さんは急に立ち上がり、
「総悟、昼飯食いに行こうか。」
と言った。
近藤さんに連れられて着いたのは、小さい頃に皆で行ったソバ屋だった。
「覚えているか、総悟。」
「覚えてまさァ。」
今でもはっきりと思い出すことができる。
美味しそうに真っ赤なソバを食べる姉上も、それを心配する近藤さんも、そして、憎らしいアイツも。
「懐かしいなぁ…。びっくりしたなぁ、ミツバ殿にもトシにも。」
空になった器を前にした近藤さんはしみじみとそう言った。
俺がまだ残っている天ぷらソバをズルズルとすすっていると、あたたかい手が俺の頭をグシャグシャとなでた。
「もう子供じゃないんですから、それはやめてくだせェ。」
「すまんすまん。」
ハハハと大きな声を上げて、近藤さんは手のひらを俺の頭から離した。
近藤さんの手は、節々が堅くなっていて、その手でなでられると正直痛い。
小さな頃甘えただった俺の頭をなでてくれた姉上の手とは大違いだ。
姉上の手は、細くて小さくて柔らかくて、そして、冷たかった。
でも、同じ、優しい手だ。
「なあ、総悟、武州は変わっていないなぁ。」
ソバ屋を出て道を歩いていると、近藤さんが、まるで「自分は変わってしまった」とでも言いたげに呟いた。
「変わってやせんよ。近藤さんも。」
そう俺が言うと、また近藤さんは驚いて、その後、うれしそうに俺の頭をなでた。
【終】