遍在する僕と君の
「ああ、僕当番だからさ医務室」
今日それか、じゃあお昼に食堂でと留三郎は笑って言う。僕は医務室へ行く前に部屋へ寄る用事を思いだす。
「伊作、今度の野外実習だが」
「わかってるよーちゃんと予習しました!仙蔵と組んでも大丈夫だと思うよ」
よしよしと仙蔵が頷く向こうの机でさんまの身を丁寧に解す留三郎が見える。意外に神経質そうに細かな骨を除いている。
「うわー伊作ぼろぼろだな!」
「小平太がどーんってしてきたからだろ!」
はははすまんと笑って言った小平太は次の瞬間にはもう真顔になって大丈夫?と訊く。ごめんねと手を引かれながら共用の水場へ行くと、先に隣の組の留三郎が水を浴びていた。
「今度の休みに、団子屋へ行く約束をしていたろう」
「ああ、ごめん忘れてた」
お前は適当だなあ、と文次郎が言う。留三郎は次の休みでも良いってよどうする?ううん大丈夫なはず。
「僕らももう卒業だね」
「そうだな」
「そうだね」
君が僕に笑いかける。
君が箸を規則正しく動かす。
君が僕らが来たのに合わせて少し右へ寄る。
君の背中を見ている。
「僕らももう卒業だね」
雪を見て君が泣いている。あれは何処の君だろうか。
「僕ねえ、何処へ居たって君の事が好きだよ」
「なんだ?別に何処へもいかねーよ?」
「うん、君はそうだろうね」
食堂で向かい合ってかぼちゃの煮付けを食べながら、笑って言う僕に留三郎は少し不思議そうな顔をしていた。
おしまい