渇望するのは、
『渇望するのは、』
力をもてあましたヤツの成れの果て、か
対等の友を失ったデューク
対等の者の存在を認めなかったアレクセイ
力があるヤツってのは力のあるダチが居ないと何か歪んじまうのかもねぇ
「…くそっ!」
真夜中、がばりと布団を剥いで悪夢を振り払うように頭を振った。
ザギ。狂った殺人鬼。少なくとも、俺はそう思っていた。
俺と似ているなんて微塵も思わなかったし、そう思うこと自体虫唾が走る。
あんな、人を殺すことに快楽を見出すような人種と一緒だと思いたくない。
だが、ザギを殺したとき、俺の心のなかにはぽかりと穴が開いた。
他のヤツらを殺したときとは違う、何か、してはいけないことをしてしまったのではないかという、恐れ。
落ちて行くあいつを見て、何故か共に落ちてしまいそうな眩暈がした。それが幸福であるかのような、錯覚。
以来、星喰みを倒してから、ほぼ毎日見たくも無い夢を見る。
『自分と対等なヤツにようやく出会えたってのに敵としてだった。それがヤツの不幸ってなもんよ』
『それってユーリくらいしか本気で戦える人がいなかったってこと?』
星喰みを倒した後、俺は気まぐれにノードポリカの闘技場の無尽斬りに挑んだ。
30人、50人、80人、100人、そして200人。地上最強の黒獅子の称号を得た俺に挑む者はいなくなった。
名誉が欲しかったわけじゃない。ましてや、褒賞が欲しかったわけでもない。
闘技場のイベントに参加した理由とは、まさしくエステルの言うとおりだった。
戦っている実感が欲しい。背筋が震えるような、生と死の狭間のやりとりがしたい。
けれど、実際に挑戦してみて失望した。俺が望んだものとは余りに違いすぎる。
何が「死ぬこともある」、だ。あんなヌルい試合で死ぬようなやつ、端から剣を持つべきじゃない。
戦っている実感が得られない。得られたのは、まだ俺が小さい頃、自分より遥かに脆弱な虫を踏み潰していたのに近い感覚だった。知らぬ間に、意識せずと殺せてしまうほど脆弱な存在は敵ですらない。
ずっと対等だったフレン。
だが、剣で俺に優っていたというのは既に過去のこと。
オルニオンでの一騎打ち以後、俺は一度としてフレンに負けていない。
それどころか月日が経つにつれ、フレンと俺の実力は少しずつ少しずつ開いていった。
「つまんねぇ……」
誰も、俺と対等に戦えるヤツがいない。
暇があれば、ギガントモンスターを捜し歩く。そしてたった一人で挑むのだ。
傷だらけになっても構わない。むしろそうなると気持ちが高ぶる。興奮して、剣が冴える。
ああ、末期だ。狂っている。
ザギ、お前もずっと、こんな気持ちでいたのか?だから俺にあれほど執着したのか?
今ならお前を理解できそうな自分が、何より怖い。
いつか俺も力を持て余し、お前のような戦闘狂に成り果てるのか。
いや、もうそうなっているのかもしれない。もう既に、俺は狂っているのだ。
「あ」
思考を廻らす途中、ふとある顔が思い浮かんだ。
そして浮かんだ瞬間、もう俺は寝床を出ていた。
急いで旅支度をして、真夜中だというのに外へ飛び出す。
そう、そうだ。あいつがいたじゃないか!
「見つけ出してやるから、待ってろよデューク。死ぬ気で、殺しあおうぜ!」
武器魔導器を使わずに人間4人を打ちのめすあいつならば、きっと俺は生と死の狭間を体験できるに違いない!