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『人間失格』

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「ねぇねぇ」

何読んでんのさぁ

馴れ馴れしく後ろから寄って来た声に

「煩ぇ。図書室だぞ黙れ。」

門田京平が一言で返す

「えぇぇ?たった一言喋っただけなんですけど俺?」


既に一言では無く喋り続けながら
その前の席に陣取るのは折原臨也だ

「何読んでるのかくらい教えてくれていいんじゃない?」

言葉を紡ぐ臨也に答えず
門田がちょっとだけ
本の背表紙を持ち上げて相手に見せる

「わぁ。『人間失格』?素晴らしいチョイス。」

さっすがだよねぇ
推薦図書に必ず入ってるよね
名作だもんねぇと
黙って読書している門田に構わず臨也が一人で喋り
周囲から視線を浴びるが誰も
あの折原臨也に文句を言う度胸のある者は居ない

それに
気付かない門田でも無いので
彼は視線を本から上げないまま
「静かにしろ」と臨也に低くドスのきいた声で呟く

「ヒィ、ごめんなさい。」

大仰にその門田に謝ってしばらく
少しの間だけ
折原臨也は黙って
机に突っ伏して昼寝の姿勢で居た

だが彼が
そんなに静かにしていられるのも少しの間だけ
やがて顔だけ上げた彼が
独り言のように呟く

「ねぇ」
「その話ってさぁ」
「主人公が最後に結婚した女が」
「他の男に犯されてるの見て」
「主人公は助けないよね」

それって

「どうなんだろうね。」

門田京平は
チラと
視線を本から上げて目の前の臨也を見る
てっきりいつもの皮肉な笑顔で
こちらを見ているかと思った臨也は
そうでは無く

ただぼんやりと
本当に独り言のように
視線を遠くに泳がせてそこに居た

どうなの
それって


呟く声は
他人に向けたものではなく
自分に向けているかのようで
思わず
門田京平は声をかけようか迷い
そして
だがかける言葉が見つからなくて黙ってそのまま
しばらく折原臨也を見て居た

「女が言うよね」
「どうして助けてくれなかったの、ってさ」
「だけどそんなの」
「訊いてどうするんだろう」

訊いたって
何も
変わらないのにさ


呟かれる声は
本当の
独り言

答えを求められているのでは無いと
そう判断した門田京平は黙って
目の前の臨也を見る
何を考えているのか
絶対に他人に悟らせようとしない男
いつも人を見下したような言動と態度
理論武装も甚だしくいけすかないのは当然だが
それでも時々
今のようにふいに
無防備になることがある
ほんの一瞬だけだが
確かに




シズちゃんなら

独り言が続く



「シズちゃんなら。きっと助けるんだろうねぇ。」



何も考えず
脊髄反射でさぁ

呟かれる言葉に
門田もそうだろうなと思う
あいつはそういう男だろうと
勿論
自分でも助けるのは当然なのだがと
門田京平は思い
臨也からそっと目を外して本の上へと戻す




そして
もう臨也が来た時には
あらかた読み終えていた本を門田が読み終え
そう言えば
臨也はあれから静かなままだなと奇妙に思って前を見ると
机につっぷした臨也は
それは静かな
ほとんど聞こえないような寝息を立てて
眠って居た

それを見た門田は
起こすか起こすまいか
しばらくの間迷う

時計を見ると
図書館の閉館時間までは後15分程
このままにしておいても
図書館司書の女性が来て起こしてやるだろう

起こせばまた何かと
煩さそうな臨也をあえて自分が起こす必要も無いと
門田は判断して席を立ち本を書架へと戻し
図書室を後にする

そして
下校しようと降りた靴箱のところで
苛々と今にも爆発しそうな平和島静雄と出会っていきなり
「ノミ蟲野郎を見なかったか?!」と訊かれ
また迷う
教えた方がいいのかどうか
だがこんな時には勘の良い静雄に迷うのは
知ってるつぅ事だよなぁと凄まれて仕方なく
図書室で寝てると教えてやると
平和島静雄がニイと微笑んだ

「ありがとよ。」
「行くのはいいが。図書室で大声出すなよ?」
「おう。解ってる!」

全然
解っていなさそうな静雄が行こうとするのを
門田京平はふと引き留めた

「静雄。お前『人間失格』って」

読んだ事あるか?

訊いてみた相手は
本などまるで読まないのでヒアリングさえできなかったらしく

「あ?人間四角??ナンだそりゃ?」

真顔で聞き返してきた

「いや・・・いいわ。んじゃな。」
「おぅ。」

片手を上げて
別れた昇降口
走ってゆく静雄の背中に
門田は溜息をつく

本人達が
どう思って居るのか知らないが




助けて欲しいと思いさえしない助けの必要な壊れた男と
助けたいとも思わず結果的に助ける何でも壊してしまう男




「・・・お前ら」



出会うべくして
出会ったんじゃねぇのかと
呟く声は
イザヤァァ!!と
あれだけ大声を出すなと言ったのに
校舎に響き渡る静雄の声で遮られる

それを聞いた門田は溜息一つ
やっぱ
教えるんじゃなかったなと
呟いて

何処となく
後味の悪い名作の読後感を
胸に納めて

靴箱から

靴を


取り出した



















作品名:『人間失格』 作家名:cotton