涼に溶ける
「んぁ?」
けだるそうに緩慢な動きで振り返る皐月がくわえているそれを、卯月は指差す。
「垂れてるぞ」
言い終わらないかどうかのうちに、ぽたり、と一滴雫がさつきの手に落ちる。
ぽたぽたと続けざまに落ちるそれは皐月の手に筋を作り、のズボンに落ちた。
「おわっ」
慌ててアイスを口から放す。
「うへ、べたべた」
「ボーッとしているからだ」
「うぅ」
手におちたそれを舐め、溶けている表面を舐めとってから、皐月は「持ってて」とアイスを卯月に渡す。
「おい」
「ねーちゃんタオルー」
卯月の声を無視して皐月は階下へ下りていく。
階段を下るバタバタとやかましい音を聞きながら、卯月はため息をついた。
その手にぽたり、とアイスが落ちる。
舐めとると冷たいバニラの味がした。
「もーあんたは。だから気をつけなさいって言ってるでしょう!」
「ごめんってねーちゃん!」
如月の声と皐月の情けない声が下から聞こえて来る。
ぽたり、と卯月の手にアイスが落ちた。
夏の暑さにじわじわとアイスの表面が溶けていく。
ぽた、とまたアイスが垂れる。
階下から聞こえてくる如月の声に、皐月が戻って来るまでもう少しかかるだろうと思いながら、卯月はアイスをくわえた。