愛してる。
愛してる、と
あと何度声に出せば『真実』になるのだろうか?
愛してる、【君は僕を】愛してる。
空虚な妄想だと、人は気味悪く思うだろう。
しかし、『群衆』の意見など、僕と君を阻む障害にすらならない。
僕の気持ちは、僕のモノ
君の気持ちも、僕のモノ。
それだけじゃあない。
その、黒くクセのある髪も、
気の強そうなつり目も、
太陽を浴び忘れたような白い肌も
無駄な肉のついていない、筋っぽい首のラインも、
人を引き込むようなその声も、
細く骨ばった手も指も、
服の上からでもわかる位細く痩せた腰も、
力を持たないその両腕も、
少しだけ柔らかい内腿も、
僕から逃げようともがくその生意気な態度も、
××××の時の××××も、
うっすらと浮かぶ涙の痕も、
頭から爪先、身体を巡る血液から細胞、DNAの一欠片でさえも
君の全ては、僕の為に存在しているんだ。
だから、君の『愛』も僕のもの。
断言するよ
君は僕を愛してる。
今はそんな態度を取ってるけど
今に君は僕を愛するようになる。だから……
「くだらねェ……」
ぎろりと、目付きの悪い三白眼が更に吊り上がる。
不機嫌そうな顔。それもまた、かわいいと思う。
「生憎、俺にそんな催眠は効きませんよ?」
「催眠?違うよ。これは予言だ」
「なら、尚更クダラナイ。」
心底呆れた様子で、彼はソファーに深く腰掛ける。
「どうして?」
「そもそも、予言なんてのはタネやシカケがなければ当たらない。そんなモノ…」
尚も生意気に言葉を紡ぐ唇を、強引に塞ぐ。
わずかなタイムラグのあと、鳩尾の辺りに強い衝撃が加わった。
「ぐっ…」
「何のつもりですか?」
「何…って、いつものことだろう?」
「黙れ。舌絡ませやがって。」
普段と何も変わらない風を装っているのだろうが、僅かに揺らぐ瞳。
常に見ていなければ解らない。恐らく本人ですら気付いていないだろう変化。
蒔かれた“タネ”は、もう既に芽を出し始めていた。
「どう?僕のこと、愛する気になった?」
「微塵も。」
甘い言葉にはほど遠い。
「でも、ヨかったでしょ?」
ニヤリと笑う口元。
しかし目はこれっぽっちも笑っていない。
あぁ、君。まるでついさっき人を殺してきた殺人中毒者のような顔してるね。
「…えぇ、気持ち悪くて、反吐が出そうな位ですよ。」
でも、僕は知っている。
君は絶対に、僕から逃げない。
だから、それまでは足掻いて、藻掻いて。
少しずつ、僕という存在に溺れていく、君の苦しむ顔を眺めて居たい。
「じゃあ、また明日。」
「二度と来るな。」
最後まで、憎たらしい台詞を吐く彼を置いて、僕は屋上を後にした。
あとには彼と、静寂だけが取り残された。
「全く。あの狐野郎、余程のキチガイだな。」
誰に言うでもなく、ただ宙に語るように彼は呟く。
「全く…」
忌々しく、刺々しく。
「俺のこと、アイする気なんてねェクセに」
震える声で、そう呟いた。
――お前は決して、俺を愛してるとは言わない