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嘘吐きだって、

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折原臨也は、嘘吐きだった。
それを知る人々は、その嘘を他人を陥れるためのものと思って欠片も疑わない。
それはとても正しい認識で、けれどまるで見当違いな回答。

『本当』は、常に『嘘』の中で泣いている。



「とっととそこから降りて来いむしろ頭から飛び降りろそして死ね!」
「シズちゃん、発言が頭悪いよー?」

三階建てのビルの屋上でにこりと笑いながら応えれば、こめかみに青筋が浮かぶ。シズちゃんは本当に分かりやすいなぁと胸中で呟いて、口唇を思い切り吊り上げた。

「今日のは嘘じゃないのになぁ!」
「テメェの話が嘘じゃなかったことがあるか!」
「失敬だなぁシズちゃん。俺はいつも嘘を吐いてるわけじゃないよ。ちゃあんと真実も混ぜてるさ、時々ね」
「俺は聞いたことがねぇなぁ!」
「だから、さっきのがそうだってばー」

何度本当だよと繰り返したところで、静雄にはまるで信じる気がない。というよりは、そもそもあの頭では臨也の『嘘』と『本当』を見分けるのは荷が重過ぎるのだろう。だから、全てを嘘だと決め付けて掛かる。
それを利用している自覚はあった。
そうと分かっているからこそ言えることも、あるのだ。
臨也の嘘は、自分を隠すためのものだ。それはきっと、多くの人を傷付ける刃でもあった。
けれど世界には、人を傷付けるための嘘があれば、人を傷付けないための嘘がある。
真実を紐解けば結局嘘であることに変わりはなく、けれど時としてその嘘は許される。判断基準はとても不確かで曖昧で、だからこそ興味は尽きない。
何処までが許されて、何処からが許せないのか。
ハイリスクであると知っていて、何故人は嘘と共に歩まねばならないのだろう。

「人間っていうのはさぁ、不思議な生き物だよねぇ?シズちゃん」
「ああぁ!?」
「その点君はとても単純だ。あまりに単純明快過ぎて、この上なく不愉快だね」
「上等だ!テメェが愉快になって良いことなんざ一つもねぇんだよ臨也ァ!」

とうとう臨也が降りてくる(否、落ちてくる、の間違いか)まで待つのを諦めたのか、手近にあった標識を容易く引っこ抜いて、ブンと思い切り投げてくる。
真っ直ぐ飛んできたその凶器をすいっと避けると、臨也に避けられることぐらい分かっていただろうに忌々しげに舌を打った。
裏も表もなく、ただただ自分に真っ直ぐに生きている男。
彼はきっと嘘なんかとは無縁だろう。
暴力だけで成り立っているくせに、彼の生き様には一切の影がない。だから、嘘も必要がない。

(ずるいなぁ、シズちゃんは)

真っ正直な彼とそれとは正反対の位置にいる臨也では、対等になんて成り得ない。
それでも、対等でいたい。
けれど今更彼のように全てに正直に生きることなんて出来るはずがなかった。今更生き方なんて、変えられない。
だから、それならと思うのだ。

「君に会いに来たんだよ、シズちゃん。それは、本当に本当だよ」

こっそり呟いて、くるりと踵を返す。
突然背を向けられたことに驚いたらしい声が背後から聞こえるけれど、振り返らずにまたねとひらひら手を振ればもう来るなと怒鳴り声が返ってくる。



折原臨也は、嘘吐きだった。
現実も本当も真実も、全てを嘘で包んで笑う以外に、真っ正直な男と対等でいる術などなかったのだ。
作品名:嘘吐きだって、 作家名:つみき