うそつき
買い物を頼んだ釣り銭をお小遣いだと渡すとあまりにも喜ぶものだから
ふと訪ねたその一言。
きり丸は小銭を大事そうに握りしめこちらを向いた。
「だって先生。銭はあるがままなんですよ」
その言葉に首を傾げるとああ、伝わらないか、うーんとなにやら腕を組み呟く。
「要するに嘘つかないってことっす」
まだあどけなさが残る年齢にはに似つかわないその言葉。
「なんだそりゃ・・・お前その年にして人生分かった気でいるんじゃないぞ」
「そりゃそうです。なんたって先生より何倍も若いですから」
あいてっ!
先生ひどいっ!大人げない!子供子供〜!
そうやってぶうたれる姿は子供そのものの癖してこいつはまったく。
いつもなんだかんだこいつのペースに乱される。
「大人は嘘つきだ。あーあ早く大人になりたい」
「・・・それは矛盾していないのか」
きり丸の言うことはいちいち解読不能だ。
よってこうやって聞き返す。
真意を聞くために。
「嘘、いっぱいついたら本当だって見えなくなると思いませんか」
「そりゃそうだろうなぁ。だけどそれが何だって言うんだ?」
お、今日は虫が入ってない。
買い物を任せたついでに摘んできたと思われる撥条を布袋から取り出しながら
きり丸の問いかけに答えると小さな陰が自分を覆う。
「ぬお・・・きり」
「先生好きですよ」
頭にのし掛かられて前が見えない。
案の定撥条を摘んできたらしい土と草の匂いがした。
「しかし私は嘘が嫌いだ」
「あ、ばれました」
休み明けのテスト範囲教えてくださいよ〜と見えない頭の上から猫なで声が聞こえてくる。
「俺、もう補習も課題も大嫌いですぅ〜!ねぇっ!ねぇ!いいでしょーちょっとくらーい」
「私だって補講も課題の採点もどれほど苦労してるんだと思ってるんだこの馬鹿たれ!!!」
頭にのし掛かった大きな猫を掴み離すとちぇ〜と口を尖らせすごすご対面に帰って行った。
「ほら、馬鹿なこと言ってないで、早く飯食べて宿題するぞ」
「え〜宿題やる暇あったら内職します」
結果のでない勉強より金になる内職!
といきり立つ子供にあほたれとげんこつをお見舞いする。
「暴力教師は今どき捕まるんすよ・・・」
「知るか。よそはよそ、うちはうち、いつも言ってるだろう」
私の言葉にぐちぐちとごねながら小さく笑ったのを気づかないふりをする。
嘘と言わないと素直に好きとも言えない可愛いこの子に
せめて心から好きだと言わせてやるくらい、この子を愛してやろうと思った。