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【DRRR 臨→静】逃げ回り追いかけろ、世界の外側に届くまで

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静雄は臨也の台詞を一蹴すると、屋上の半ばまで歩を進め、にぃ、と満足げな笑みを浮かべてみせた。
「お前が太郎だろうが花子だろうが、今のお前は巾着のネズミって奴だ」
「袋だよシズちゃん」
「うるせぇ!」
怒号と共に放たれた後ろ回し蹴りが扉を破壊する。
非日常的な光景も、日常と化してしまえば、もう驚かない。
「……無教養だなぁ」
「どうだっていいんだよそんなこと!」
「ひどいよシズちゃん、たまには俺の話だって聞いてくれてもいいじゃん?」
純粋な親切心から間違いを訂正してやったつもりが、火に油を注ぐ結果になったようだった。
勿論、分かり切ったことではあったが、こうも黙れ煩いと否定され続けると、こちらとしても癪に障る。
「そう、例えば……そうだね、愛って、必ずしも恋愛だけじゃないよねって、最近思うんだ」
ぱっと思いついたことをとりあえず舌に載せただけだったが、言ってから我ながら随分と妙なことを言い出したものだと内心自嘲する。
だが相手にとってももはや、非日常は日常なのだ。
唐突に謎めいた問答を仕掛けられて煙にまかれるのも、苦手な理屈で楽しそうに喋られて苛立つのも。
ナイフを取り出して相手の気を引きながら慎重に距離を測り、上がった息を落ち着ける時間稼ぎをしようと、さらに言葉を続ける。
あるいは、もしかすればそれこそが、目の前の相手に伝えたいことだったのだろうか?
「時々いるじゃない? 神サマに恋してるから、結婚はしませんって言う人。
でも神への信仰は恋じゃないよ。実際は神サマなんていないし、いもしないものに心を寄せるだなんて、つまるところ一人遊びの妄想に過ぎない。
俺は人を愛してる。それは信仰じゃないし、妄想でもないよ、断言したっていいね、それに……」
「ああ? 御託は要らねぇんだよ、うぜぇ」
だが臨也の長台詞など聞く気もない静雄の手が、容赦なく給水塔の梯子にかけられた。
給水塔の梯子が剥がれる単純な音と、それに混じって鉄の梯子を壁に捻じ込んでいたはずのボルトが落ちる悲しげな金属音は、即ち戦闘開始の合図。
「アハハッ、どんどん化け物じみてくるねぇ、シズちゃん!」
化け物め。その力の前では、かざしたナイフはあまりにも頼りない。
この心は病のように人を愛している。
だが人を愛すれば愛するだけ、愛しきれないことを痛感する。
全てがゲーム盤の上なら安心して惜しみなく愛し、やがて飽いたら惜しみなく捨てることができるものを、人でありながら人外の能力を持つ『化け物』が、ゲーム盤を侵食し、臨也を何度でも目的に立ち返らせる。
あるいは、完成しないから、愛し続けていられるのかもしれない。
より堅牢に強固に育っていく人類の進化は、それでも静雄の進化に追いつかない。
数歩後ろに下がると、フェンス越しの風が屋上の縁に近いことを知らせた。
最後に大きく息を吸いこんでから、臨也はその疑問を口にした。
「ねぇ、シズちゃん。君は一体どこまで行くの?」
知っている。
静雄の進化に行先なんてないということを。
足の赴くまま、行動が示したまま、心が望まない方向へと成長し続ける。
傷つく度に二度と傷つかないようより強く治り、傷めつければ痛めつけるだけ暴力の味を覚え、へし折れた武器と衝動を無邪気に振り回す。
畏敬。
人ならざる者に対する愛は、新羅の言うとおりそう呼んでも良かったかもしれない。
だが残念なことに、臨也は犢神家で、神なんて信じていなかった。
だから、近づきたい。
手を合わせて崇拝するのも、恐れて縮こまるのもまっぴらだ。
ねぇ、どこまで行くの?
超え難い距離の向こうで、静雄が目を細める。
一切の躊躇いを排した表情で、給水塔の梯子が構えられた。
それは普通の人なら害意で済む程度の行動かもしれないが、静雄がやるとそれだけで殺されそうなほどの威圧感をもたらした。
ああ。
ぱちん、と手の中で折りたたみナイフの刃が閉じる音がする。
まだ死にたくないなぁ、俺。
それだけ思うと、微笑みつつも背後のフェンスに手をかけ、突如として臨也はそれを一気に飛び越え身を躍らせた。
「……ッ、逃げるな、てめぇぇ!」
上から静雄の声が降ってくる。
重力に従って心もとなく落ちていく体を抱きしめて、臨也はそれに心の中でこっそりと答えた。
――俺を置いてくのはシズちゃんの方じゃないか。
ぎゅっと、拳を固める。
ねぇ、シズちゃん。
どこ行くの?
君は、どこまで行く気なのさ!
声は聞こえない。手は届かない。
それでも、落下の感覚に不安を煽られる中、流れる星のように生き急ぎながら懸命に思考は走り続ける。
聞こえない。届かない。触れられない。
振り向いて、立ち止まって、こっちに手を伸ばしてほしいなんて全然思っていない。
そんなもの、反吐が出そうだ。
それは根暗な子供がサッカー部のエースを妬んでインターネット掲示板で叩くような逆説的な憧れでしかなかったが、その自覚がない者にとっては、存在への徹底した嫌悪に違いなかった。
大っ嫌いだ、情けなんてかけられたくない、化け物の愛なんて要らない、ただ人間として彼の待つ限界に辿りつきたい。
辿りついたら肩を掴んで思いっきり揺すぶって、そして叫んでやる。
今度こそ俺の話を聞けよ! って、さ。
そうして着地の衝撃に耐えて顔を上げた時には、既に臨也はいつもの不敵な彼に戻っていた。



生命の危機を伴う日常的な非日常から何とか逃げおおせた岸谷新羅は、昇降口の手前でやっとその足を止めた。
彼のような凡才を自負する人間には、学校は多少スリリングに過ぎる。
早く家に帰ってセルティとパソコンで温かい会話を楽しみたいものだなどと考えながら、ふと新羅は先ほどセルティと自分の恋路を話すのに使った四字熟語を思い出した。
愛多憎生。
過剰な愛は憎悪の種となり、寵愛を受けては嫉妬を買う。
それは彼のそれなりに大事な友人になかなか当てはまっているようにも思えた。
「……もしかしたら、人を愛しすぎると、憎まれてしまうのかもね。人ならぬ存在に」
まぁ、僕は他人になんて興味ないからセルティに憎まれる心配はない訳だけど、臨也にはせいぜい頑張ってほしいものだね。
そう一人ごちて、新羅はそろそろ教室に戻れるのではないかと期待して歩き出した。