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【腐向け】はじめての…【蘭日】

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夕暮れ時の空は月並みの言い方をすれば燃えたように赤く染まっていた。
下町の風情を残す町並みを長身が夕焼けでさらにに延びた影を引きずって歩く。久しぶりに訪れた町は予想よりも記憶のままでむしろ幻想染みた印象を持たす。
アスファルトに足音を響かせても、まだ活気のある町並みではすぐに掻き消えてしまう。
すれ違った自転車があまりの長身に驚いて振り向いたときには、長身は小路に入ってしまったのだろう、その姿は見えなくなっていた。
小路を進んだ先には、一軒の木造の日本家屋が建っており、長身に見合う長い指がインターフォンを押すと短いメロディが鳴った。
「はいは〜い。ただいま〜」
そんな声と共に足音が聞こえてきて、すりガラスの引き戸に人影が写る。
――カラリ――引き戸が開かれると見知った顔は柔らかな表情で迎えた。
「いらっしゃいオランダさん。長旅お疲れでしょう?」
「ほんなもんに疲れてえんよ」
長身を屈めて挨拶したオランダは手荷物から紙袋をすっと差し出す。
「ほれ。土産じゃ」
「カステラですね。楽しみにしていたんですよ。オランダさんのカステラは格別ですから」
来客用のスリッパを出し終わった後に紙袋を受け取った日本が黒髪を揺らして言った。
「ほれはよかった」
案内されるままに、茶の間に向う廊下を歩きながらそっけなくオランダは答える。前を行く人に縁側から入る茜の光が染み込んで、白い割烹着が薄桃色に見えた。
木製の廊下がキシキシと鳴るのを耳にしながら、茶の間に入ると煮魚だろうか、醤油の香りがする。
「今日は久しぶりにオランダさんがいらっしゃるということで、腕によりをかけてるんですよ」
灰皿を差し出した日本は「もう少しで出来ますから楽しみにしててくださいね」と残して台所に消えた。


「本当に久しぶりですよね、オランダさんがこちらまでお出でになるのは…」
ほくほくと湯気の立つ食卓を囲んだ二人は他愛の無い会話をする。
「そうやったか?」
「ええ、お仕事ではお会いしますけど、こちらまでいらっしゃるのは久しぶりですよ。私、楽しみにしてたんですぁら」
「で、楽しみにした結果がこれか」
「ちょっと作りすぎましたかね?」
そんな言葉も笑顔に消える。オランダが指摘したテーブルの上には煮魚をはじめ、二人ではおおよそ食べきることなどできない料理が並んでいる。
「朝、市場に行きましたら新鮮なお魚が沢山ありましたので、つい」
『つい』という量ではないのだが、会議室で見る表情とは違う柔らかい表情につい言葉を返すのを忘れてしまう。
「オランダさんがお泊りになるっていうので、浴衣も用意したんですよ。以前にお泊りになったときのはもう古くなってましたから。きっとお似合いになると思うんです。お風呂上りにお持ちしますね。そうそうお土産に頂いたカステラなんですけど…」
箸をとめて話す日本の唇に、オランダが長い人差し指をのせてその言葉を止める。
「じゃかましいわ。少し食わせる」
自分の箸はもとより、相手の箸を止めていたことに気づいた日本が頬を染めて「すみません」と答える。
それにオランダはふと目を細めた。


今夜は満月らしい。
一昔ほどとはいかないまでも、月明かりは夜目に眩しく感じられる。
客間の障子をカラリと開けたオランダの何気に見上げた空には、月に掛かる薄雲がゆっくりと動いていた。
一眠りしたうちに夕餉に飲んだアルコールは抜けてしまったらしい。
廊下に出ると夜の空気が動く。
キイキイと鳴く木製の音は昼間よりも大袈裟に夜に溶けていく。
それは偶然にも必然にもオランダの耳に届いた。
――ごほっ…ごほっ…――
月の光を頼りに音へと近づいていく。
この家の主の部屋の前へたどり着き、その障子を開けようと手を掛けた瞬間
「すみません。起こしてしまいましたか?」
か細い声が障子ごしに聞こえる。
「偶々ざ」
障子を開けて部屋に入ると布団から起き上がった日本の姿がみえた。
「だんねぇけ?」
「えぇ……ごほっ…ごほっ…」
障子を閉めながら尋ねた問いに咳き込んだ答えが返ってる。オランダがかがんで日本の顔を覗き込む。
「嘘つけ」
短く言って、見つめる。
障子の影が格子に見えてまるで牢の中にように見えた。
「爺のくせにはしゃぎすぎちゃいましたかね」
苦笑する日本の顔が高熱のせいで歪む。それでも――あの時よりは随分とマシやろ――そうオランダは思った。
「無理せんで寝ろや」
「オランダさんは?」
「ここにいてやるやざ」
布団の脇に胡坐をかいたオランダに日本は布団のなかに横になる。
「風邪ひいとるんやろ。無理せんで」
「知ってらっしゃったのですか」
「まぁの」
幾分か間延びしたように聞こえる答えを残して布団の上をぽんと軽く叩く。
「傍にいていただけるとは心強いです」
「ほおか?」
「ええ…」
黒い宝石のような瞳を閉じた日本が静かに答えると、オランダはその唇に口付けを落とした。
「オランダ…さん?」
「感染して治せなんて言わんけどな…」
静かに、そう唇を動かして黒髪を撫ぜる。
さわりさわりと夜の闇に、小さな音が響いていった。