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紺碧の空 番外編

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「うん、解かるよ。菊は今凄く幸せだから、余計にそう思うんだね」
『……はい』
 素直に頷いた気配がして、菊は殆ど吐息に近い声で肯定を返した。
 誰よりも自分を愛してくれるフランシスの存在に心も身体も満たされているからこそ、過去を踏み台にした現在の幸福があるからこそ、思わずにはいられないのだろうと思った。
「俺もずっと不思議だった。菊がヤオを選ばなかったこと」
 でも今ならば解かると思った。互いが互いを想う余り決別する道しか選べなかった王と菊。好き合っているのに何故そうなるのかと子供心に納得出来なかったけれど、今ならば二人の気持ちが痛い程に解かるのだ。
 この道しか選べなかった菊の気持ちが、アーサーと離別する事しか出来なかった自分が、二人の境遇がシンクロしているような気がしてグッと胸が熱くなる。
「……解かるよ」
 心の底から共感を呟いて、アルフレッドは静かに受話器を置いた。
 本当はもっと話していたかったけれど、もう直ぐ隊の集合時間になる。大事な式典の手前、もし遅刻などしようものならどんな罰が待っているか解からなかった。
 朝っぱらからやけに濃い話をしてしまったと、話の内容を思い出して思わず頬に苦笑が飛び出す。
 数年後、もし世界一周の旅を無事迎える事になったら、その時は菊とフランシスの居る場所を出発点にしようかな。漸く芽生えかけた未来への希望を大切に思い浮かべ、育みながら、アルフレッドは少しだけ軽くなった足で寮の玄関を駆け抜けて行った。
作品名:紺碧の空 番外編 作家名:鈴木イチ