紺碧の空 番外編
特に今年は十八歳……成人を迎えると言う事で、義母の張り切りようは凄かった。今朝も念を押すように寮へと電話を掛けてきたので、もう子供じゃないんだからと苦笑して宥めても、沢山ご馳走を用意して待っているわねと至極ご機嫌な様子なのだ。
「母さんはお前が大のお気に入りだもんな」
微苦笑の形に頬を緩めて、アーサーはクツクツと喉を鳴らせて笑った。
母にとって末の子供は特に可愛いものだと聞くが、自らが腹を痛めて産んだ末っ子はやたらと無愛想な男に成長してしまった。その代わり、養子として屋敷にやってきたのは天使のように愛らしくも利発な少年だったので、すっかり傾倒してしまったらしい。
「士官学校に行く時だって、どうにかして家から通わせようとしてたしな」
「アーサーにくっついて日本に行く時も、俺は置いて行けって、すごく詰め寄られてたね」
「それは言うな。すげートラウマなんだよ」
げんなりと重い息を吐き、アーサーは忌々しそうに眉を顰めた。お前は何処へでも行っていいからアルだけは置いていきなさいと涙ながらに訴えられた当時の思い出は、相当苦い記憶として彼の脳裏にインプットされているらしい。それを見てアルフレッドは声を上げて笑った。
「この後は?」
けらけらと笑っている弟を嫌そうに眺めて、アーサーは再び軍帽を被り直しながら予定を聞いてくる。
「ミーティングが終わったら解散だよ」
「すぐに済むなら表で待ってる」
OK、と返事をして、ヘルメットを小脇に抱えたアルフレッドは、また後でと義兄に向かって軽く手を振り、上官や他の訓練生達が集まっている列へと小走りで戻っていった。