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かみなりが鳴って雨がたくさん降る夜

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不安定な夏の夜だった。くらいくらい空は、ときどき青白い亀裂をはしらせた。遠くではお腹にひびく音が落ちて、雨は世界がつくりなおされるくらいに、ざんざん降っていた。それはすべての汚ないものとか、みにくいものとか、こびりついている憎しみとか、そんなものを、ぜんぶ洗い流してしまいそうだったけれど、わたしはぬくぬくと、扇風機のまわる部屋のなかで、ぼうっとベッドの上にすわって、外をながめていたので、やっぱり雨はただこの世を循環するだけだ。
低い気圧のせいで、すこし頭がしくしくしている。薬はあんまりすきじゃないから、飲まない。寝たら、なおることだ。
雨は際限ないように、平等にこのあたりに降り注いでいて、そうしてそれはいまにもわたしの住んでいる古びたアパートの屋根をつきやぶって、かべをはいで、押し流してしまいそうだけど、古いとはいえ、つよく作られているこのアパートはそれでも地にしっかりついている。ばりばりと、窓は割れそうに揺れているけれど。
わたしは不謹慎だけど、このまますべて、いらないものたちと、押し流してくれたらいいのになあとおもった。
いらないもの、たとえば、明け方のちらかったゴミだとか、メールボックスにいれられているピンクチラシだとか、深夜の猜疑心とか、偏頭痛とか、愛とか、この雨が止んだら、わたしは普通のおんなのこになっているという希望、とか。
ぜんぶぜんぶ、いらないのに、どうしてこんなに、溢れているんだろう。

枕もとに放っていた、携帯電話が音もなく震えた。そっと取ったら、竜ヶ峰くんからのメールで、わたしはしばらく、受信有りの待ち受け画像(ただの、内臓画像だ。黄色と緑の、ストライプの)をみたあと、ゆっくり決定ボタンをおして、メール画面をひらいた。だって、チャットではさいきんよくはなしをするけれど、彼からメールがくることって、実はすごく少ない。あっても事務的なものばかりだし。内容は、とてもシンプルなものだったけれど、決して事務的ではなくて、そしてはじめての、なんでもないメールって、やつだった。


from 竜ヶ峰帝人
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雷と雨が、ひどいね


たったそれだけ。
大丈夫?だとか、晴れるといいね、とか、そういうことはいっさいなくて、本当にチャットで発言するようなものだったけれど、これは間違いなく、2人だけの電波間を通して届いたものだから、わたしは、どう返していいのか、戸惑って、携帯をにぎりしめてしまう。
どきどきしたのは、男の子から、こんななんでもないメールをもらったことが、はじめてだからだろうか。紀田くんも、実はあんまり、わたしにメールをくれることがない。よく喋るひとほど、会わないときのコミュニケーションっていうのは希薄なものなのかもしれない。
胸がどんどん内側から鳴らされていて、遠くでうなるかみなりが、まるで体内にうつったみたいだ。足のつまさきも、背中も、頬も、耳も、じんわりとあつくなる。
わたしはいちど、鼻をすすったあと、携帯をきちんとひらいて、返信画面をひらく。真っ白な画面に、ぽつりぽつり、まるで彼とはなすときみたいに、たどたどしく、文字を打つ。こんなに、こんなに、世界が割れそうな夜なのに、2人をつないでいる、ハイテクな、見えない糸は、切れないようだ。

わたしは、数えてみれば、わたしが生きてる世界にはいらないものがたくさんあることを知ったけれど、だけど、それらがあって世界が成り立っていることも、知っている。ちらかったゴミは、カラスを生かして、ピンクチラシは、知らない人の生活を支えていて、猜疑心の裏には信頼が隠れているし、愛はたくさんのかたちをもつけれど、総じて、愛なのだ。
わたしの普通の女の子になりたいって希望こそ、ほんとにいらないかなあとおもったけれど、いま、こんな風に、男の子からなんでもないメールをもらって、なんて返そうか、悪戦苦闘している自分は、ふつうの、16歳の、女の子、だ。

わたしはわたしにその希望をほんものにしてくれた竜ヶ峰くんが、たいせつ、だなんて言葉でくくれないほどに、おおきな存在で、だから、だから、わたしは、わたしが普通の女の子になり損ねた原因である能力を、或る時はいやでも行使して、彼をまもりたいとおもう。
女の子は守られるほうらしいけど、でも、わたしは、やっぱり普通じゃないから、守ろうとおもうのだ。そうでもしないと、こんな愛を、ただ持ち腐れているだけに、なっちゃうから。そんなのは、いやだから。普通じゃないってことは、普通の人ができないことができることでもあるんだ、ならば、いやだいやだも、言ってられない。

まだあいかわらず、雨は叫ぶように降っていたけれど。わたしはいちど自分のつくったメール画面を読み返してから、ぐっと送信ボタンをおした。それは雨も雷もかいくぐり、彼のもとに、そうっと届くのだろう。くろの空に、またひとつ、白いものがはしった。すぐに、なにかが爆発するような大きな音が響いた。家も、ゆれた気がした。
わたしはその振動のなかで、ひとりで、じっとしている。頭痛は、すこしやわらいでいた。両手でしっかりと、携帯電話をにぎりしめる。まるで、だれかの手を、必死に握るように、体温を、のがさないように。

つぎに震えるときを、待ちながら。