NeverMore5
side:花村陽介
「とりゃ!」
手に持ったスパナをたたき込むと、譜面台はあっさり砕けて消える。
りせを追って、校舎らしき建物に突入すると、何故かそこは音楽室で、いきなりピアノや鍵盤ハーモニカが襲いかかってきた。
「くそっ、数が多いな」
一撃で壊れるとはいえ、数が多すぎる。
右から飛んできた木琴を避けようとしたら、
「花村危ない!」
いきなり脇腹に衝撃を受け、壁際までふっ飛ばされた。
「花村先輩!?大丈夫ですか!?」
直斗の声に、俺はよろよろと立ち上がりながら、
「だ、大丈夫・・・てめー!いきなり何すんだーーーー!!」
くってかかると、里中は憤然と腰に手を当て、
「何よ!人がせっかく庇ってやったのに!!」
「今のキックの方がダメージでかいわ!!味方を殺す気か!!!」
「喧嘩してる場合じゃないですよ!あれを!」
振り向けば、直斗の示す先に、先ほどまでいた廊下が見える。
そして、何体もの影が、くっついたり離れたりしながら、こちらに突進してきていた。
「やっべ・・・逃げるぞ!」
里中と直斗に合図して、音楽室の扉へと走る。
横から飛んでくる、カスタネットやらタンバリンやらを、首をすくめてやり過ごしながら、勢いよく音楽室を飛び出した。
side:青葉 秋
「よーい、ドン!」
合図とともに牛乳瓶を口に当て、一気に傾ける。
味わう間もなく飲み下し、ぷはっと口を離した。
見れば、全員ほぼ同時に飲み終わったようで、他の三人も、きょろきょろと周りを伺っている。
「誰が早かったっすかね」
完二が、口元を拭いながら聞いてくる。
「クマ、カンジより早かったクマよ!ねー、センセイ?」
「ああ!?俺がおめーなんかに負けるわけねーだろ!そうっすよね、先輩!?」
「いや、知らん」
「ごめん、見てなかった」
雪子と二人首を振ると、クマは勝ち誇ったように、
「やっぱり、クマが勝ったクマねー♪カンジ、だらしないクマよ」
「ちげぇよ!くそっ、もう一回だ!」
「あー、もう、二人同時でいいよ。ほら、冷めるから早く食べろって」
「そういう訳にはいかねえっすよ!」
「そうクマ!これは、男と男の勝負クマね」
・・・・・・・・・。
「じゃ、お前達、プリンなしね」
デザート用のプリンを指さして言うと、
「ちょっ!何でそうなるんすか!!」
「センセイ、しどいクマー!クマの楽しみを奪うなんて!!」
「いいから黙れ。とっとと食え」
side:花村 陽介
「くそっ、どうなってんだよ、ここは」
苛立ちを込めて呟いても、事態は好転しない。
やっと影を振り切ったと思った時には、方角を見失っていた。
階段を上った先が下りの階段だったり、扉を開けたら廊下だったりと、なまじ学校のような外見をしているだけに、混乱させられる。
「久慈川さんがいないまま、動き回るのは危険です。向こうにはクマ君がいるし、一カ所に留まった方がいいのではないでしょうか」
「でもさ、向こうは、こっちが合流してくると思ってんでしょ?菜々子ちゃんを探すの優先してるだろうし、こっちのことまで、気が回らないんじゃないかな」
直斗と里中の言葉に、俺は頭を抱えた。
確かに、このまま動き回っても、余計迷うだけだ。
時間がかかっても、クマ達が気づくのを待つか?
けれど、その間に、菜々子ちゃんや、りせに何かあったら・・・
くそっ。こんな時、青葉だったらどうするんだろう?
そう、青葉だったら。
あいつだったら、こんな時、どうするんだろう・・・
・・・・・・・・・
「あー!もう!全っ然思いつかねえ!!」
俺の叫びに、二人が飛び上がる。
「ちょっと花村!いきなり叫ばないでよ!」
「里中、直斗、ごめんな、頼りない奴で。青葉だったらどうすんだろうって考えたんだけど、全然分かんねえんだ。あいつがいれば、絶対何とかしてくれんのに。俺じゃ駄目なんだ。やっぱり、俺じゃ・・・」
「あーもう!馬鹿じゃないの!」
声とともに、里中に蹴り飛ばされた。
「だっ!!てめぇ!!いきなり何すんだ!!」
「あんたが、あんまり馬鹿だからよ!!何で、そうやって一人で抱え込もうとすんの!あたしら仲間じゃん!もっと頼んなさいよ!あんた一人で戦ってんじゃないんだよ!?」
「そうですよ、花村先輩。何も、あなた一人で考える必要はありません」
里中と直斗の顔を交互に見てから、吹き出してしまう。
げしっ!!
「げふっ!!だからいきなり何すんだよお前はあああああ!!!」
「人が真面目に話してんのに、何笑ってんのよ!ほんっとムカつく!!」
「だからって、蹴ることねーだろ!!」
俺の抗議に、里中は腰に手を当てて、
「もういいっ!直斗、こんな奴ほっといて、向こう見てこよ。何か手がかりがあるかも知れない」
「そうですね。ここに留まっていても、いつ敵が現れるか分かりませんし」
そう言うと、二人してさっさと歩きだした。
「何だよ、冷てーなー。俺達、仲間じゃないのかよー」
里中に蹴られた箇所をさすりながら、俺も後ろから付いていく。
「さっき笑ったのはさー、ふざけてたんじゃなくてさー」
いつも一人で抱え込んで、大したことないみたいな顔して。
「俺が、いつも思ってたこと、二人が言うから」
全部自分で片づけて、こっちには、一言も弱音を吐かなくて。
「なんか、そういうとこは、真似しなくていいのにな・・・」
もっと頼って欲しい。
心を開いて欲しい。
手助けさせて欲しい。
俺達、親友だろ?
「あー・・・合流したら、一発殴ってやる」
ぶつぶつ言っていたら、急に里中が立ち止まる。
また、あの影が現れたのかと、とっさに身構えると、
「どうした?敵か?何処にいる?」
「・・・カレーの匂いがする」
・・・・・・・・・。
「・・・は?」
「分かんないの!?この匂い、絶対カレーだって!!こっち!!こっちからする!!」
いきなり、里中は走り出し、角を曲がっていった。
「ちょっ!馬鹿おまっ!!一人で行くな!!」
「里中先輩!単独行動は危険です!戻って!!」
こっちの声が聞こえないのか、里中が立ち止まる気配はない。
「くそっ!追いかけるぞ、直斗!」
「はいっ!」
里中の後を追って、俺達も廊下の角を曲がった。
side:青葉 秋
「ちゃんと好き嫌いしないで、食べるんだぞ」
「うーっす」
「はーいクマ♪」
雪子がくすくす笑いながら、
「青葉君、先生みたい」
「センセイはセンセイだクマよ。ユキちゃん、変なこと言うクマね」
「そういう意味じゃねーよ」
完二のつっこみに、クマはきょとんとした顔をしている。
「よく担任の先生に言われてたよ。『好き嫌いするな、残さず食べろ』って」
「へえ。青葉君の嫌いなものって、何?」
「いや、俺じゃなくて、隣に座ってた子が、食が細くてさ」
『アキくん、半分食べて』
そう言って、泣きそうな顔でおかずを差し出してきた子がいたことを、懐かしく思い出す。
あの子は、何という名前だっただろうか・・・
「その子は、確か人参が嫌いだったな」
「あー、居ますね、そういう奴」
「とりゃ!」
手に持ったスパナをたたき込むと、譜面台はあっさり砕けて消える。
りせを追って、校舎らしき建物に突入すると、何故かそこは音楽室で、いきなりピアノや鍵盤ハーモニカが襲いかかってきた。
「くそっ、数が多いな」
一撃で壊れるとはいえ、数が多すぎる。
右から飛んできた木琴を避けようとしたら、
「花村危ない!」
いきなり脇腹に衝撃を受け、壁際までふっ飛ばされた。
「花村先輩!?大丈夫ですか!?」
直斗の声に、俺はよろよろと立ち上がりながら、
「だ、大丈夫・・・てめー!いきなり何すんだーーーー!!」
くってかかると、里中は憤然と腰に手を当て、
「何よ!人がせっかく庇ってやったのに!!」
「今のキックの方がダメージでかいわ!!味方を殺す気か!!!」
「喧嘩してる場合じゃないですよ!あれを!」
振り向けば、直斗の示す先に、先ほどまでいた廊下が見える。
そして、何体もの影が、くっついたり離れたりしながら、こちらに突進してきていた。
「やっべ・・・逃げるぞ!」
里中と直斗に合図して、音楽室の扉へと走る。
横から飛んでくる、カスタネットやらタンバリンやらを、首をすくめてやり過ごしながら、勢いよく音楽室を飛び出した。
side:青葉 秋
「よーい、ドン!」
合図とともに牛乳瓶を口に当て、一気に傾ける。
味わう間もなく飲み下し、ぷはっと口を離した。
見れば、全員ほぼ同時に飲み終わったようで、他の三人も、きょろきょろと周りを伺っている。
「誰が早かったっすかね」
完二が、口元を拭いながら聞いてくる。
「クマ、カンジより早かったクマよ!ねー、センセイ?」
「ああ!?俺がおめーなんかに負けるわけねーだろ!そうっすよね、先輩!?」
「いや、知らん」
「ごめん、見てなかった」
雪子と二人首を振ると、クマは勝ち誇ったように、
「やっぱり、クマが勝ったクマねー♪カンジ、だらしないクマよ」
「ちげぇよ!くそっ、もう一回だ!」
「あー、もう、二人同時でいいよ。ほら、冷めるから早く食べろって」
「そういう訳にはいかねえっすよ!」
「そうクマ!これは、男と男の勝負クマね」
・・・・・・・・・。
「じゃ、お前達、プリンなしね」
デザート用のプリンを指さして言うと、
「ちょっ!何でそうなるんすか!!」
「センセイ、しどいクマー!クマの楽しみを奪うなんて!!」
「いいから黙れ。とっとと食え」
side:花村 陽介
「くそっ、どうなってんだよ、ここは」
苛立ちを込めて呟いても、事態は好転しない。
やっと影を振り切ったと思った時には、方角を見失っていた。
階段を上った先が下りの階段だったり、扉を開けたら廊下だったりと、なまじ学校のような外見をしているだけに、混乱させられる。
「久慈川さんがいないまま、動き回るのは危険です。向こうにはクマ君がいるし、一カ所に留まった方がいいのではないでしょうか」
「でもさ、向こうは、こっちが合流してくると思ってんでしょ?菜々子ちゃんを探すの優先してるだろうし、こっちのことまで、気が回らないんじゃないかな」
直斗と里中の言葉に、俺は頭を抱えた。
確かに、このまま動き回っても、余計迷うだけだ。
時間がかかっても、クマ達が気づくのを待つか?
けれど、その間に、菜々子ちゃんや、りせに何かあったら・・・
くそっ。こんな時、青葉だったらどうするんだろう?
そう、青葉だったら。
あいつだったら、こんな時、どうするんだろう・・・
・・・・・・・・・
「あー!もう!全っ然思いつかねえ!!」
俺の叫びに、二人が飛び上がる。
「ちょっと花村!いきなり叫ばないでよ!」
「里中、直斗、ごめんな、頼りない奴で。青葉だったらどうすんだろうって考えたんだけど、全然分かんねえんだ。あいつがいれば、絶対何とかしてくれんのに。俺じゃ駄目なんだ。やっぱり、俺じゃ・・・」
「あーもう!馬鹿じゃないの!」
声とともに、里中に蹴り飛ばされた。
「だっ!!てめぇ!!いきなり何すんだ!!」
「あんたが、あんまり馬鹿だからよ!!何で、そうやって一人で抱え込もうとすんの!あたしら仲間じゃん!もっと頼んなさいよ!あんた一人で戦ってんじゃないんだよ!?」
「そうですよ、花村先輩。何も、あなた一人で考える必要はありません」
里中と直斗の顔を交互に見てから、吹き出してしまう。
げしっ!!
「げふっ!!だからいきなり何すんだよお前はあああああ!!!」
「人が真面目に話してんのに、何笑ってんのよ!ほんっとムカつく!!」
「だからって、蹴ることねーだろ!!」
俺の抗議に、里中は腰に手を当てて、
「もういいっ!直斗、こんな奴ほっといて、向こう見てこよ。何か手がかりがあるかも知れない」
「そうですね。ここに留まっていても、いつ敵が現れるか分かりませんし」
そう言うと、二人してさっさと歩きだした。
「何だよ、冷てーなー。俺達、仲間じゃないのかよー」
里中に蹴られた箇所をさすりながら、俺も後ろから付いていく。
「さっき笑ったのはさー、ふざけてたんじゃなくてさー」
いつも一人で抱え込んで、大したことないみたいな顔して。
「俺が、いつも思ってたこと、二人が言うから」
全部自分で片づけて、こっちには、一言も弱音を吐かなくて。
「なんか、そういうとこは、真似しなくていいのにな・・・」
もっと頼って欲しい。
心を開いて欲しい。
手助けさせて欲しい。
俺達、親友だろ?
「あー・・・合流したら、一発殴ってやる」
ぶつぶつ言っていたら、急に里中が立ち止まる。
また、あの影が現れたのかと、とっさに身構えると、
「どうした?敵か?何処にいる?」
「・・・カレーの匂いがする」
・・・・・・・・・。
「・・・は?」
「分かんないの!?この匂い、絶対カレーだって!!こっち!!こっちからする!!」
いきなり、里中は走り出し、角を曲がっていった。
「ちょっ!馬鹿おまっ!!一人で行くな!!」
「里中先輩!単独行動は危険です!戻って!!」
こっちの声が聞こえないのか、里中が立ち止まる気配はない。
「くそっ!追いかけるぞ、直斗!」
「はいっ!」
里中の後を追って、俺達も廊下の角を曲がった。
side:青葉 秋
「ちゃんと好き嫌いしないで、食べるんだぞ」
「うーっす」
「はーいクマ♪」
雪子がくすくす笑いながら、
「青葉君、先生みたい」
「センセイはセンセイだクマよ。ユキちゃん、変なこと言うクマね」
「そういう意味じゃねーよ」
完二のつっこみに、クマはきょとんとした顔をしている。
「よく担任の先生に言われてたよ。『好き嫌いするな、残さず食べろ』って」
「へえ。青葉君の嫌いなものって、何?」
「いや、俺じゃなくて、隣に座ってた子が、食が細くてさ」
『アキくん、半分食べて』
そう言って、泣きそうな顔でおかずを差し出してきた子がいたことを、懐かしく思い出す。
あの子は、何という名前だっただろうか・・・
「その子は、確か人参が嫌いだったな」
「あー、居ますね、そういう奴」
作品名:NeverMore5 作家名:シャオ