ハロウィンスイート
「Trick or Treat! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」
子供達が思い思いの衣装で駆け回っては道ゆく大人を驚かし、扉を叩いてはお菓子をねだる。
大人達は苦笑を浮かべつつも用意してあった小さな菓子の包みをモンスター達に与えた。
今日はハロウィン。
お祭り好きの城主がこんな日を逃すはずもない。
城の中庭には巨大なジャック・オ・ランタン。くりぬかれた目や口からめらめらと燃える炎がみえて、光がゆれていた。子供達の長い影がすぐ傍をすり抜けて城内を上へ下へと大騒ぎをしている。
「Trick or Treat!」
今日何度目かわからないノックの音をきく。
サイバー司教は読んでいた報告書から目を離し、菓子包みのたくさん入ったカゴを手に扉を開けた。
「お菓子をおくれよ! くれなきゃイタズラだ!!」
おきまりの文句と共に現れたのは小さな魔法使いと狼男。
大きな帽子をずれないようにしっかと持っているのは魔法使いに扮する虹天使ダーツ。
つけ耳とヒゲがやけに良く似合うのは悪魔アレフ、狼男のいでたちだ。
二人は精一杯の怖い顔で部屋に飛び込んで来た。
「さあサイバー司教!! お菓子を下さい!!」
「それともイタズラがいいですか!?」
キラリと二人の目が光る。
肩に担いだ袋の中身はこれまでに手に入れた戦利品、お菓子の山だろう。お菓子も魅力的だがイタズラするのも悪くない、そう思っているようだ。
「おやおや、イタズラされてはかないませんね。さあどうぞ」
微笑ましい二人の小さな手のひらに包みを渡すと二人は嬉しそうに(でもちょっと残念そうに)それを受け取ると「ありがとう」といって駆けていった。
夜がふける頃にはすっかりカゴは空っぽになっていた。菓子包みは城の厨房に頼んで用意してもらっていたが、どうやら城の子供達きっちりの数だったらしい。
書類も片付いたことだし、そろそろ床につこうとしたとき、コンコン、とドアを叩く音がした。
「Trick or Treat!」
子供達かと思ったが、ついで上がった声に思わずうなだれた。
嫌になる程聞き慣れた声。
現れたのはこの城の主、マルコネオンだった。おそらくダーツのかぶっていたものと同じ魔法使いの帽子をかぶってイタズラっぽく笑っている。
「なにやってるんですか…」
「なにって、ハロウィンじゃないか」
あまつさえどこから調達したのは黒の大きなローブも巻き付けて、それなりに様になっていた。
「仮装するのは子供だけでしょう?」
「そうだっけ?」
「まったく、いつまで立っても貴方は」
「どっちでもいいよ。さあ、お菓子をくれるのかくれないのかどっちだ?」
と言われてもサイバー司教のカゴはすでに空っぽである。くわえてあまり甘いものが好きではないサイバー司教の私室にお菓子のストックがあるわけもない。
(しめしめ…予想通りお菓子はすっかり無いみたいだな)
マルコネオンは顔はしっかり悪い魔法使いだが、心のなかではニヤニヤと笑っている。なにせ厨房にはきっちり子供達の人数分しか渡さないように言い含めておいたのだから。
どんな悪戯しようかと思うと顔は思わず緩みそうになる。
「しかたありませんね。甘いものでいいんでしょう?」
「へ!?」
そんなはずは無い。子供達はひとり残らずサイバー司教の部屋に向かわせたし、お菓子のストックが無いことは事前に調査済みだった。
「ちゃんと受け取ってくださいね」
「――――!?」
ちゅっとかるい音を立てて唇は離れていった。
呆然とするマルコネオンの目の前でサイバー司教はにっこり笑うと
「はい。受け取ったらおばけは帰ってください」
と言ってパタンと扉を閉めた。
「えぇーーーーーー!?」
閉じた扉の前でマルコネオンの叫びが響くも後の祭りだった。