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めぐり・めぐる・わたしと

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撫子は、暦おにいちゃんをみると、胸のあたりがきりきりしたり、目の奥がじいんとしたり、ほうっとあつい息が出たりするのですけれど、これはいったいどういうことなんでしょう。暦おにいちゃんと出会ったときは、撫子はいまよりずっとずっとこどもで、胸のふくらみもないし、背もちいさいし、少なくとも暦おにいちゃんを見てふわふわすることはなかったのです。撫子はいつもひとりだったので、おんなのこの友達も少ないくらいなので、異性の、おとこのひととあんなにお話したり、遊んだりしたのは暦おにいちゃんがはじめてでした。『はじめて』ということは不思議なもので、なんでも特別にしてしまうものです。ただのお使いが、はじめてをつけることによって、涙腺がゆるんじゃうみたいに。あれ、すこし違うかなあ?

そういうわけで撫子にとって、暦おにいちゃんはとくべつなわけですけども、でも、このふわふわしたきもちはどう形容したらいいのでしょうか。これが恋なのだと思い当たることも、ないことはないのですけど、だけれどもそんな安易な言葉で片付けていいのかもわからないんです。撫子は暦おにいちゃんと一緒にあそびたいなあとは思うんですけれど、果たして恋人同士がするというキスをしたいかと問われたらよくわからなくなるんです。それはどうして、撫子の望んでいることと異なっている気がするんです。撫子の望むことは、暦おにいちゃんとお話したり、暦おにいちゃんが笑ってくれたり、暦おにいちゃんをしあわせにすることなのです。すこしおおげさかもしれませんけど、でも暦おにいちゃんに無視をされたら傷つくし、泣いてたらさみしくなるし、ふこうだったら、撫子もふこうなんです。

日本語というのはめんどうくさいもので、なんでもかんでも一口に『すき』と表現してしまうのでややこしいですね。撫子のなかにはたくさんの『すき』が存在していまして、それはきっと暦おにいちゃんも同じなんでしょう。月火ちゃんに向けた好き、わたしに向けた好き、神原さんにむけた好き、そうしてそうして。
作品名:めぐり・めぐる・わたしと 作家名:萩子