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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.1

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「へぇえ・・・。君がねぇ?」

如何にもな流し目で
ちろりと
自分を見て来る男が自分と
同い年だと聞いてはいたがまさかこんな

平和島静雄は慣れない綸子の紅絹の座布団の上で
居心地悪く首を掻く

「新羅に話は聞いてる?前のサイモンてのは。」
「聞いてます。相当の手練れだったって。」
「手練れっていうかねぇ。そりゃあもう頼りになったよ。」

お陰でここら辺で
俺の店にいちゃもんつけてくる奴なんて
いなかったしねぇ

女物の友禅の着物をぞろりと肩から流して
その下に着ている緋色の襦袢の襟を
チョイと色めいた仕草で直して
黒い瞳がまたチラとこちらへ流される

「で?君、この前まで戦地に居たんだっけ?」
「いやあの。復員は前にしてたんスけど。」
「じゃあ復員してきてから何してたワケ?」
「まぁあの。闇市の知り合いの手伝いなんかを。」
「へぇ、そう。何の仕事?」
「えぇと・・・。金貸しの・・・取り立てなんかを。」
「あはは。そうなんだ?そりゃあいいねぇ。」

ちょっと
雇う見込み出て来たかもね?

細い小首を傾げる目の前の男の妙な色香に
最初から平和島静雄はどうにも落ち着かない

大体がこんな
男相手のそれも若い男の子ばかりを集めた娼館に
何故自分が用心棒として志願してしまったのか
それは
この男専門の娼館の言わばお抱え闇医者の
新羅という静雄の幼馴染みの一言がきっかけに他ならない

『え?静雄君、仕事探してるの?だったら丁度』

僕のお得意先の店で
最近腕っ節のいい用心棒が辞めて国へ帰ってねぇ

『いい用心棒を探してる人が居るんだよ』

良かったら
紹介しようか?と
童顔の幼馴染みは一見して爽やかな笑顔で笑った

金貸しの取り立て屋稼業だって似たようなものだが
どうにもこうにも食うに困って
ギリギリな生活の中仕方なく借りた金を返せない貧乏人から
力尽くで金を取り立てる仕事は静雄には向いていなかった

特に相手が子沢山の貧乏人や
如何にも生活に疲れた女だったりするともういけない
取り立てるどころか果ては同情して
自分が金を貸してやろうかと思うような有様で
『お前には向いてねーな?誘って悪かった』と
仕事を紹介してくれた先輩の田中に
かえってすまながられて恐縮したりもした

お前そんな強面のクセして
ヘンに優しいからなぁと
恐縮しまくる静雄に田中は苦笑して
いいからこっちの事は気にすんなと肩を叩かれた

そこへ
丁度振って湧いたのが用心棒の話だ
相手は貧乏人では無さそうだし
今度は自分に合う仕事ではないかと
呉服屋に勤めている出来た弟が見たててくれた
一張羅の着物を着込んでやって来てみれば
そこは
静雄が全く足を踏み入れた事もない世界

きらびやかな着物と香の匂い
小年達の妙に明るい声と人慣れた笑顔
慣れ慣れしくこっちこっちと手を引かれるのも初めてなら
ここへ通されてやがて入って来た
こんな男を見るのも初めてだ



「ねぇ君、人の話聞いてる?」



急に
覗き込まれて

息が止まった




黒い瞳がスウと細く微笑んで
だが
抜け目なく
静雄の顔色一つ見逃さぬよう
隙の無い目は素早く動く

「汗、随分とかいてるねぇ?暑いかな今日は?」
「い、いや。」
「だよねぇ。そんな暑いような陽気でも無いしね?」
「あぁ・・・。」
「何だか落ち着かないけど。どうしたの?」

にっこり
微笑んで小首を傾げる動作
その拍子にスルリと
友禅の着物がずり落ちて緋色の襦袢が目を射る

「ねぇ?俺の言ってること。理解してる?」

平和島静雄君?

指先でツウと

弟が誂えてくれた一張羅の着物の襟をなぞられて
静雄は
それまで押さえていたものの正体を知る




怒りだ




目の前の相手に対する
言い様のない
怒り




バッツと払い除けようとした薄い手は
思わぬ素早さで引かれ
静雄の手は空を切る結果となった




「・・・手前。」
「あはは。気が短いねぇ?もう怒った?」
「ワザとだな。一々俺の反応面白がりやがって。」
「仕方ないじゃない?君って免疫無さそうだしさぁ?」

仮にも
この店の用心棒やろうって奴が

言い終えない間に
グイと優男の手が思いがけない力で静雄の襟を掴み寄せる

「・・・こんなコトじゃ困るんだよねぇ?」

ちょっと
色気仕掛けされたくらいで一々面食らってちゃさぁ?

ふっと
至近距離で微笑む黒の瞳は
完全に静雄を下に見下して馬鹿にしきっている




「・・・手前・・・。」




そんなに
この商売やってて見下されんのが嫌かよ

静雄が瞳を眇めて言う

「は?何それ?」
「手前のその目。凄ぇ恨み辛みを飲み込んで」

人見下すことだけが
楽しい
って

「そんな目してんぜ手前?鏡見てみな。」
「・・・何・・・言ってんの?」
「さぁな。自分でもよく解らねぇ。そんな気ぃしただけだ。」

放せ

静雄が恐ろしい力で折原臨也の手を上から掴み
顔をゆがめた臨也が苦笑して
素早い手つきで一瞬
なぎ払うように振るった懐刀を
静雄はあっさりと指先摘んで受け止めた




「・・・へぇぇ。驚いた。」




ただのバカかと思ったけど
結構やるね

その静雄の動きに少しだけ
折原臨也の声が変わる




「そうだな。雇ってあげるよ。早速今日から働いて?」




「・・・給金は?」




「言い値で。」




「はぁ?!」




「ひと月働いてみて、それで務まりおおせたら自分で決めてよ?」




「・・・解った。」




「じゃあね。宜しく。」




如何にも
繊細で優しそうな笑顔で
ことりと首を傾げて
臨也が白い手を差し出した




握ろうとして
見ると
自分の掴んだ後が真っ赤に
白い手に
くっきりと




悪ぃ
俺力加減苦手だしと言う静雄に
やだなぁと臨也が溜息をつく




「じゃあホラ。ちょっと手ぇ出して。動かさないでよ?」



言い終えない間に
差し出した静雄の手を
素早く臨也の刀が切り裂くと
ポタポタと滴る血が
紅綸子の座布団に沁みて一瞬で見えなくなる




「ほらこれでお揃い。君の手も赤くなったよ?」




にっこり
微笑む笑顔は




恐ろしく
綺麗で





静雄は切り裂かれた手を
押さえながら
その毒々しい緋色の襦袢の上の
白い顔を

殺せそうな眼力で



睨み付けて



いた