隙
━ えぇ、もちろん。
違う。そうじゃないんだ。
言いたいのはそうではなくって・・・言葉にすると同じなんだけど、違うんだ。
会いたいよ。お嬢さん。時々、無性にそう思うんだ。
例えば、仕事の合間、昼食をとってるときなんかにふと思い出すんだ。
そういったらお嬢さん、あんたは笑うだろうか?あきれるだろうか?
それとも、昼食で自分を思い出すなんて と怒るだろうか?
こんなセンチな思い、誰にも言えやしないけど、本当なんだ。
ウィナー家の下請けをやってるせいもあって、時々カトルは遊びにくる。
本当はそれどころじゃなく忙しいはずなんだけど、どこまでお人よしなんだか時間を作っては俺のところにくる。
こんな小汚い廃品回収業をなりわいとしている俺のところに。
いちいち、アポイントをいれてくるのがあいつらしいといえばあいつらしい。
まぁ、確かに、一言いってもらったほうがいい。
日によっちゃ仕事で宇宙にいるせいで会えないこともあるのだから。
お昼ごろに行くと連絡があったので、今日は一緒に飯でも食おうとデュオは待っていた。
すると、時間通りに車が表にとまり、金色の髪をしたいかにも育ちの良いお坊ちゃまが降り立った。
背が伸び、それに伴うように幾分肉がついたカトルだったがその柔和な顔は今もかわっていない。
そのカトルがデュオを見つけると、気さくに声をかけた。
「やぁデュオ。久しぶり。ちょっと遅かったかな?」
「いや、いまから飯にしようとしてたとこ。」
「あぁ、それはよかった。僕も一緒していい?」
「あぁーもちろんそのつもりだぜ」
「君の車でいい?あの車は帰らせるから」
デュオがもちろんというように首をすくめると、カトルは後ろをふりむいて高級な車の運転手に合図をおくる。高級車は音もなく反転するとすぐに遠くにいってしまった。
デュオは、育ちのいいカトルにあわせることはなく、よくいく飲食店へと案内した。
いわゆる、やすくて、うまくて、量の多い店。
お昼時ということもあり、大勢の人でごったがえしていた。
しかも、女性や子供はすくなく肉体労働を生業としているような大柄のがさつそうな男ばかりだ。
その中でカトルのスーツ姿と育ちの良いものごしはいかにも目だっていて、本人は多少居心地が悪そうにしていた。デュオは、これじゃオーダーすらままならないだろうと判断し、カトルを席にすわらせ、自分は料理を買いに行った。
店の客におとらず、がさつそうで大柄なおばさんが愛想も悪くデュオの注文を受け付ける。
デュオが頼んだのはボリュームたっぷりのステーキセット。大きな肉に、大量のポテト。そしてライスがついている。カトルへは、ミックスセットをたのんだ。これはステーキにソーセージ目玉焼き、そしてライスのセット。デュオのものよりはボリュームが抑えてある。
それを運んできたデュオをカトルが少し驚いた顔で迎える。
「んで、今日は何のようだったんだ?」
席につくなり切り出す友人にカトルは苦笑した。
「えぇ。今度のクリスマスなんですけど。地球で過ごしませんか?」
「ちきゅう~~~?なんでまた・・?
大雑把に切り分けたステーキをデュオは口に運ぶ。
「リリーナさんが、外務次官を辞められて大学に入りなおしたじゃないですか。
それで、はじめてまともに冬休みがとれるということで招待してくれたんですよ。
でも、デュオとの連絡がとれなかったとかで、僕に白羽の矢がたった・・・というわけなんです」
そうなのだ。リリーナは外務次官の仕事を辞めた。自分にはもっと勉強すべきことがあると、後任をレディやその他の者たちにまかせ、自分は一から勉強しなおしている。
だが。
「お嬢さんにはヒイロがいるじゃねーか。わざわざ俺らが邪魔しにいくことじゃないだろう?
邪魔したとなっちゃヒイロに何いわれるかわかんねーよ」
幾分、苦い思いをしながらデュオが言うと、対面に座った友人は少し驚いたような顔をした
「あれ?デュオ・・知らないんですか?」
「んぁ?」
「ヒイロなら、火星に行きましたよ・・・?」
「んぐ!」
大きな塊のステーキ肉がデュオの気管をふさぎ、あわてて水で流し込む。
「い・・・いつ!!!!」
つい大声を出してしまったが、周りはそれ以上にうるさく、だれもデュオたちには注意をはらわなかい。カトルは気圧されたように後ろに引いた。
「いつって・・・・もぉひと月くらいになるんじゃないですか・・・?
おかしいな・・・僕には直接話しにきたんですが・・・」
「火星って・・・あいつなにしに・・・・・・・・・まさか・・暴動とかか?」
嫌な想像が頭をめぐり、暗い表情になる。
「火種がくすぶっているという話もききますが、今回は別の事がメインだと思いますよ。」
「別のこと・・・・?」
「火星で仕事があるそうです。彼も必死ですね」
そういって楽しそうに笑うカトルをみて、また苦いものがこみ上げてきた。
ヒイロが必死に仕事をしている理由は一つしかない。
噂では大学にかよいつつ、某有名会社に入りいろいろな仕事をこなしているらしい。
リリーナと同等以上の地位に着くため・・・・。
「他の奴らはどうなってんだ・・・?」
「トロアは地球でちょうど公演があるらしく、その後にお邪魔するといってました。
五飛はまぁ、仕事が仕事ですからどうなるか分からないとはいってましたが、
リリーナさんが、レディにその日は自分の護衛に指名すると言ってましたね。
ドロシーはもちろんきますよ。」
「じゃぁ、俺もいくわ。暇だし。」
「めずらしいですね。あぶれたんですか?」
笑うカトルにあわせて笑ってみせる。
「お嬢ちゃんに敵うような美女はいなくってね」
これは本当だ。正直にいって、俺はもてるほうだしほっといても女がよってくるタイプだ。
何人も可愛いとおもう女もいたし、付き合った女もいた。
ちなみに今現在付き合っている女性もいる。
だが、どこか心がさめているのを自覚している。
「あーぁ、ヒイロがいねーんだったら、その間に口説いちまおうかなぁ」
先に食べ終わったデュオが外をながめつつ冗談めかして言う。
「それはいいかもしれませんね。」
予想外の答えにデュオがカトルのほうを向く。
カトルはすまして一口サイズに切り分けたステーキを口に運ぶ。
「あんな綺麗な人、ヒイロにはもったいないですもんね」
「・・・・・あぁ、本当に」
なぁ、ヒイロ。俺に火星に旅立つことを言わなかったのは俺が気に食わないという理由だけか?
それともわざとなのか?俺に伝えたくなかったのか?
お前は変な勘はいいからな。もしかしたら気づいてるかも知れねぇよな。
俺に変な手出しされたくなくて黙ってやがったのかな?
それとも俺、そんなに信用されてんのかな?
期待はうらぎらねーたちなんだけど、こればっかはわかんねーよ。
「・・・・らねーから・・・」
「え?」
「なんでもない。それにしても食うのおせーなぁ」
「・・・・デュオがはやいんですよ」
「はははは」
(お前が、リリーナとつりあうように努力してるんなら、
その間にさらっちまうからな・・・・ヒイロ。
あんまり、俺に隙をみせるんじゃねーよ。しらねーからな。)