マフィァパロ(タイトル未定)
−全ては君の為に−
「見てごらん」
そう言って、子供を抱き上げるのは一人の男。ビルの上で子供を抱き上げる男の姿は、まるで遊園地で見るような姿。…幾つかの問題を省いたとしたら。
この光景が普通の光景に見えない理由は2つある。
1つ目は子供と男の容姿が似ても似つかない事。子供は少し茶色がかった髪に黒い瞳をしているのに対して、男は黒髪に赤い瞳。顔立ちも同じ親から生まれたとも、男の子供だとも言い辛い。
2つ目は男の姿。男は真っ黒なスーツに高そうなコートを羽織っている。まるで普通のサラリーマンかのような風貌。しかし、男が子供を抱き上げている腕が通常ではなかった。手袋と袖の隙間。普通であるならば肌が見える筈なのに、見えない。代わりに見えるのは冷たい金属物質の色だ。
「あれが、【イケブクロ】。俺達が住んでいる【シンジュク】とはちょっと違う」
「……いけぶくろ」
「そうだよ。イケブクロはね、シンジュクとは違って争いがないんだ」
「……へいわなのか?」
「君にとっては、平和だろうね」
【シンジュク】、かつて存在していた新宿とは姿を変えていた。元々新宿であった区画は全てマフィアに支配され、今では日本人のマフィアすら存在するようになった。所謂、マフィアの街だ。
そんな中、男と子供は出会い、過ごしている。
「…おれ、」
「ん?」
「あそこに、いきてぇ」
子供が小さな指で示すのは、話題に出ていた街【イケブクロ】。【シンジュク】とは違い、かつての平和も、平穏も、そのままにして残っている安寧の地。腕の中の子供が、願う場所。
「……そっか」
男は優しく微笑むと、子供の髪を撫でる。そして、小さな手を空いている手で握り締めると、まるで忠誠を誓う騎士であるかのように言った。
「なら、俺は…ヴァルキリアのボス折原臨也として、君に誓おう。いつか、あの地で君が平和に暮らせるように」
「……いざや」
「それまで辛い道がるかもしれない、酷い事をするかもしれない。それでも、俺はこの誓いを忘れないよ」
シズちゃん、と男は、折原臨也は笑って言った。
(きっかけは、ささやかな願いであった)
作品名:マフィァパロ(タイトル未定) 作家名:Hkk0