蘭兄さんと祖国の今昔
「もうお帰りですか」
「ああ、また来るわ」
「お待ちしております。いつもありがとうございます、オランダさん」
コートを羽織って立ち上がる。布団から抜け出し、袂を直して座って、日本はオランダを見上げて。
「次は、新茶の季節にいらして下さいな。香りのいいお茶をお出ししますから」
「その頃に来れるかどうかは、海の気まぐれ次第やざな」
海を渡るには時間がかかる。ちょっと海が荒れただけで、予定が大幅に狂うから。
「そんなら、お前がこっちへこねま」
家を出て、今度は自分でオランダに会いにくればいいのに。日本は愛想笑いを顔にはりつけて、淀みない口調で言った。
「善処します」
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作品名:蘭兄さんと祖国の今昔 作家名:美緒