総ては悲劇的な被害妄想に倒る
敵を殺したときにです。
当然、人からは血が出ます。
けれど、敵はもう動かないのに、死んだのに、それは止まらないのです。
とても、とっても不思議な現象でした。
思考を巡らせて、出所を確かめればと思いつきました。
それでは、確認してみましょう。
血は、どこから出ているでしょうか?
「…俺の、口からかィ」
結核。
その4文字は、死神でした。
***
いつもここに来ると安心してしまう。ここはぬるま湯だ。時にあたたかくて、つめたくて、心地よい。こうして耳によく響いてくる罵声と笑い声が自分の住処でもよくあることだからだろうか。
「起きたの沖田くん。沖田の沖田くん」
「…それ、全然おもしろくねェですぜ、旦那」
「言っておくけど気絶したフリもおもしろくないからね」
ばれていた。
白昼堂々血まみれで家のまん前で倒れたふりをされて、当たり前だが銀時は不機嫌そうにしていた。
こうしていれば銀時が拾ってくれるのを知っていたから、つまりわざとだ。銀時は知っている。沖田は知っている。銀時は絶対に何も聞いてこない。
病気の兆候が見られ始めたころからずっと考えていた。どうして自分、いやこの時なのだろうと。冗談であってくれと願った思いは儚く散って、現実が叩き落される。死とはいつも隣り合わせなのだから大したことはないと誤魔化していたのに、どうしてこんなところで、弱気になってしまうのか。
それはたぶん、銀時のせいだ。
「姉上が呼んでるんだ、きっと」
寂しいって、一緒にいてくれよって。
でもダメだ姉上、俺はだって地獄にしかいけない子。
「おまえそれ本気で言ってンの、」
「…嘘ですよ」
「ああ、そうだよな。本気だったらマジで窓から蹴り落としてたわ」
「そら恐いですねィ」
表の通りの反対側の窓からのずっと先、見えるのは、自分の仕えている者達のいる城だ。ひどく小さく見えるものだなとおもっていると、静かに銀時が窓を閉める。無言のまま立ち去る銀時のひとみには、侮蔑も憤怒も、もう何も宿していない。いつもの死んだ魚の目をしていた。
先程垣間見せてしまった自分の弱さ。生き恥を晒した。なんてことだ。死んでしまいたい。自分も銀時も証拠隠滅の為殺してしまいたかった(ダイイングメッセージにはそうだな、勿論土方と書いて)。
銀時が必ずなかったことにしてくれると確信できなければ、きっと刀を持って後ろから切っていた。
けれど、いつも出切る数秒先の相手の死の未来が今は全く想像出来ないのだ。何故だろうと不思議におもいながら、沖田はまどろみのなかに、沈んだ。
作品名:総ては悲劇的な被害妄想に倒る 作家名:きみしま